Sep 17, 2022 interview

荻上直子監督が語る 頭にあったいろんなものがつながってできた『川っぺりムコリッタ』

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“ひとりでも大丈夫、友だちがいなくても別に困らない”

池ノ辺 荻上監督は、どうして映画監督になろうと思ったんですか?

荻上 元々理数系だったので、文章を書くということも一切してこなかったし、漢字もあまり得意じゃないんですけど、アメリカの映画の学校で脚本クラスがあって、脚本を書けるようになったら、脚本を書くのがすごく楽しくなって。これを監督してみたいと思ったんです。なので、脚本から監督ですね。

池ノ辺 自分で書いた脚本を自分で撮りたいと思ったのが、監督になろうとしたきっかけなんですね。

荻上 だから、他の人の脚本だと監督できないんですね。

池ノ辺 なるほど。でも最近はNetflixの『リラックマとカオルさん』とか、脚本だけ書かれた作品もありますね。

荻上 歳をとって現場へ行くのに早起きするのが辛くてしょうがなくて(笑)。最近は脚本の仕事を増やしています。

池ノ辺 そうやって映画監督としてキャリアを重ねてこられたわけですが、『川っぺりムコリッタ』は、これまでの映画でも描かれていた食べること、生きることに加えて、死ぬことが大きなテーマになっていたと思うんですが、監督のなかに変化があったんですか?

荻上 あったんだと思います。出産して子どもができて、というのは大きかったです。それから自分が歳を取ってきて、じかに死っていうのを考えるのになったということもあります。

あとはNHKの「クローズアップ現代」で、“ゼロ葬”についての番組(『あなたの遺骨はどこへ 〜広がる“ゼロ葬”の衝撃』)を見て、骨に対する意識みたいなのを興味深く感じて。死んでしまったあと骨になることをモチーフにして、何か映画が作りたいと思ったのが、この映画です。

池ノ辺 日常で耳にしている歌や、流れてくるテレビからインスパイアされて『川っぺりムコリッタ』みたいな独創的な映画が生まれるのがすごいと思うんですが、日常生活を送る上で、自分のスタンスみたいなものはありますか?

荻上 今、SNSとかで、何かたくさん悪口も書かれるじゃないですか。それを見ないし、気にしないです。私は私でいいって思わないと、すごい惑わされちゃう気がして。

SNSだけじゃなくて、生活する上でも、ママ友とか、お友だちとか飲み仲間とか、そういう付き合う人はたくさんいても、誰かに何かを言われても、気にしないというスタンスを貫いています。“ひとりでも大丈夫、友だちがいなくても別に困らない”って。

池ノ辺 そういうことは大切ですよね。では、最後に。監督にとって映画とはなんですか?

荻上 映画が一回流れてしまって、できなかったりすると、もう悔しくて悔しくて、どうしていいかわからない状況に陥ってしまって。本当に何か、マグロって泳いでないと死んじゃうみたいなのがありますけど、映画作ってないと死んじゃうみたいなのが映画監督なのかなって思っています。

それぐらい、何よりも映画を作っていたい。これからも映画を作り続けたい。どなたかが言ってたんですが、映画って本当に麻薬みたいなところがあって、1度入り込むとなかなか抜け出せないっていう。私にとって、映画はそういう魔物だという気がします。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎
写真 / 岡本英理

プロフィール
荻上 直子(おぎがみ なおこ)

監督・脚本

1972年、千葉県生まれ。1994年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年の帰国後に制作した自主映画「星ノくん・夢ノくん」がぴあフィルムフェスティバルで音楽賞受賞。2004年に劇場デビュー作「バーバー吉野」でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。2006年「かもめ食堂」が単館規模の公開ながら大ヒットし、拡大公開。北欧ブームの火付け役となった。以後ヒットを飛ばし、2017年に「彼らが本気で編むときは、」で日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞他、受賞多数。また、ドラマでは、2021年4月より放送されている中村倫也主演のドラマ「珈琲いかがでしょう」(テレビ東京)がある。

作品情報
映画『川っぺりムコリッタ』

山田は、北陸の小さな街で、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。ある日、隣の部屋の住人・島田が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変する。できるだけ人と関わらず、ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、夫を亡くした大家の南、息子と2人暮らしで墓石を販売する溝口といった、ハイツムコリッタの住人たちと関わりを持ってしまい‥‥。図々しいけど、温かいアパートの住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつほぐされていく。

監督・脚本:荻上直子

出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、北村光授、松島羽那、柄本佑、田中美佐子 / 薬師丸ひろ子、笹野高史 / 緒形直人、吉岡秀隆

配給:KADOKAWA

© 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

公開中

公式サイト kawa-movie.jp

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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