Jun 22, 2022 interview

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

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楽しみな2人の若手俳優

早川 磯村さんは本当に勘がよくて器用な方でしたね。ヒロムはあまりセリフがなくて、見ているとかじっとしていながら表情で表現するシーンがとても多かったので、きっとそういう演技は難しかっただろうなと思うんですよ。磯村さん本人も、泣いたり、怒ったりする感情的なお芝居の方が簡単だけど、今回はそういう芝居じゃないと最初から分かっていたので、そういう風に演じたとおっしゃっていました。本当にそれがもうしっくりきて、何もいうことはないなと思いながらの撮影現場でした。

池ノ辺 演じていく中で彼が変わっていったことはありましたか。

早川 磯村さんの役は伯父である幸夫と出会って徐々に変わっていくという役なんですけど、順撮りはできなかったので、最初から、たかお鷹さん演じる幸夫と2人のシーンを撮っていました。それでも、撮影中に、お二人の関係性が本当に少しずつ作られていくというか、そこに本当に幸夫とヒロムがいると見えてくるような変化が感じられましたね。今回一緒に仕事させていただいて、これだけ引く手あまたで売れっ子である理由がわかりました。

池ノ辺 カンヌもご一緒だったんですよね。

早川 はい、滞在時間30数時間っていう本当に短い時間でしたが無理を言って来ていただきました。レッドカーペットを歩いて、映画を愛する観客の人たちを間近で見て、とても感動されていました。

池ノ辺 なかなかできない体験ですもんね。そういう経験がさらに彼の演技に積み重なっていくんでしょうね。瑶子を演じた河合優実さんは、その表情の雄弁さに驚かされました。

早川 本当はこの瑶子という役は、もう少し年齢が上の、複雑な内面を抱えた人という設定で考えていたんです。それが、河合さんにお願いしようとなってから役がどんどん豊かになって転がりだしました。河合さんにお会いして、この役のことをどう思いますかと伺ったときに、河合さんが語ってくれた、その瑶子像がとてもしっくりきたんです。

なので、私が想定していた瑶子像を一旦消して、河合さんが自然に演じられる方でいこうと思ったんです。そうしたら本当に素敵なミチと瑶子のシーンが出来上がりました。瑶子は河合さんと2人で作っていった役だと思っています。彼女が登場するのは映画の後半で、しかも画面に映っている時間は少ないんですが、それでも強烈な印象を残していました。それは本当に河合さんの力だと思います。

池ノ辺 この先有望な役者さんですね。

早川 それはもう間違いなく。

『十年 Ten Years Japan』から『PLAN 75』へ

池ノ辺 この映画は、最初は『十年 Ten Years Japan』(2018年)というオムニバス映画の中の短編だったんですよね。

早川 はい、もともと『PLAN 75』という長編映画を作りたいと思っていたところに、たまたま『十年 Ten Years Japan』という企画のお話をいただいたんです。10年後の日本社会を描くというコンセプトであれば何でもいいということだったので、『PLAN 75』というのは、ちょうどそのコンセプトに合うのではないかと思ってお受けしました。

池ノ辺 是枝裕和監督が直接声をかけてくださったんですか?

早川 いいえ。是枝監督は総合監修で、私たち5人の若手監督は適宜アドバイスをいただきましたが、最初に「やりませんか」と声をかけてくださったのは水野詠子さんというプロデューサーの方です。水野さんとは、ここで信頼関係が築かれて、ぜひ長編も一緒にやりましょうということで、今回もプロデューサーをお願いしています。

池ノ辺 カンヌでは是枝さんも一緒になって喜んでくれたみたいですね。

早川 そうなんです。それが本当にうれしくて‥‥。運よく一緒の年に出品することができて、現地でも映画を観ていただき、お会いしてお話しもできました。私も『ベイビー・ブローカー』を観させていただいたのですが、本当にすばらしい映画でした。

池ノ辺 監督はなんて言っていました?

早川 「誇らしいです」とおっしゃっていただきました。「若手監督を後押ししたくて『十年』という企画に参加して、その参加監督がこうして長編を持ってカンヌに来たということを、とても誇らしく思っている」と言ってくださいました。

池ノ辺 ちゃんと形になって、全世界の人に観ていただけるってのはとてもうれしいことですよね。

早川 うれしいですね。やっぱり反響はすごくて、カンヌの大きさを感じました。