Jun 22, 2022 interview

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

A A

少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施行された。様々な物議を醸していたが、超高齢化問題の解決策として、世間はすっかり受け入れムードとなる。主人公の角谷ミチは夫と死別し一人暮らし。78歳の今もホテルの清掃員として働く。しかしある日、高齢を理由に退職を余儀なくされ、住む場所も失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。

角谷ミチを演じるのは9年ぶりの主演作となる倍賞千恵子。申請に赴いた役所の窓口で、偶然甥に再会する孤独な老人・岡部幸夫を、たかお鷹が演じる。一方、<プラン75>に携わる側の若い世代として、申請者専用コールセンターに勤務しミチと交流する成宮瑶子を河合優実、市役所の申請窓口で働く幸夫の甥・岡部ヒロムを磯村勇斗がそれぞれ演じる。<プラン75>に何の疑問も持たずにいた2人は、ミチや幸夫との交流によってその理不尽さに気づき葛藤する。

監督の早川千絵は、短編『ナイアガラ』(2014年)で、カンヌ国際映画祭シネフォンダシン部門入選。2018年には、是枝裕和監督 総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN75』の監督・脚本を手掛ける。この短編からキャストを一新し、物語を再構築した本作『PLAN 75』で長編映画デビュー、本年の第75回カンヌ国際映画祭でカメラドールの特別表彰を受賞。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、早川千絵監督に、本作品が生まれるまでのエピソード、映画への想いなどをうかがいました。

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

池ノ辺 監督、カンヌ国際映画祭でカメラドールの特別表彰の受賞おめでとうございます。

早川 ありがとうございます。

池ノ辺 カンヌ、どうでした?

早川 映画祭は華やかでしたね。でもレッドカーペットを歩いたり、フォトコールしたりというのは正直苦手で、そういうのはスターに任せて、自分は裏口から入って上映に立ちたいと思うくらいでしたけど、それは監督がやらなくちゃいけないので大変でした。ただ、フィリピンとフランスと日本のスタッフみんなが一堂に会せたのがすごくうれしかったです。

池ノ辺 上映の後、皆さんずっと拍手をしていたと聞きました。やっぱり万国共通に通じるテーマなんですね。

早川 そうですね、そう思いました。

池ノ辺 現地での反応はいかがでしたか。

早川 想像していた以上にいろんなことを読み取ってくださっていましたし、とても深いところに届いていると、皆さんの感想を聞いて感じました。

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

若い人たちの気づきこそが希望

池ノ辺 私も拝見しましたが号泣してしまいました。まずミチ役の倍賞千恵子さんの演技、素晴らしかったです。どんな演技指導をされたんですか。

早川 ほとんどしなかった気がします。倍賞さんのお芝居が本当に素晴らしいので、言うことなしでワンテイクOKというのも、とても多かったんです。私がもう少しこうしてくださいと言ったシーンはほんのわずかでした。

池ノ辺 それは監督の脚本をちゃんと読み取って演技していたと。

早川 だと思います。むしろ、私以上に理解されて読み取られていたんじゃないかなって思うくらいです。例えば、私が「このシーン削ります」って言ったところに対して、「なんで削っちゃうの? 私、これやった方がいいと思う」っておっしゃられたシーンがあって、倍賞さんがそうおっしゃるならとやっていただいたら、本当に素晴らしいシーンになって。

池ノ辺 どこですか? 

早川 それは警備員をやっているシーンでしたが、それ以降も動きやシーンで私がカットしようとしたところに、やった方がいいと言われるところがあって、それはカットせずに戻しました。最初の件で倍償さんが正しいことは私にはわかっていましたから。結果として、そのシーンがなかったらどうなっていたんだろうと思うくらい素晴らしい出来上がりになったんです。

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

池ノ辺 倍賞さんは、脚本を読んでもう頭の中で全部自分が演じる流れができていたんでしょうね。それがなくなっちゃうと崩れちゃう。

早川 だと思います。

池ノ辺 倍賞さんはもちろんですが、若い俳優さんたちの演技も素晴らしいなと思いました。昔は大家族で、おばあちゃんやおじいちゃんなど家族の死を看取る機会というのは日常的にあったけれど、今は家族が小さくなって家族の死に出会うことが減っています。今回の映画では、若い人達が、単に仕事だと思ってこなしていたことから、目の前の人間の生き死にに直面する。彼ら若い人達が、生きること、死ぬことがどういうことなのかを知っていくところ、その健気さに私は生きる希望を見たし、感動したんです。

早川 私も、最初に感情移入していたのはミチなんですけれども、やはりこの映画の中で一つの希望たり得るのは若い人達の気づきだと思いました。最初、ヒロムと瑶子という若い2人は、<プラン75>の運営側の人間として無自覚にそのシステムの中に組み込まれている。自分が相手をしている高齢者は、その選択によって死んでしまうのですが、そこまで想像していないというか、ただ与えられた仕事を淡々と機械のようにこなしているわけです。

そんな2人が、ミチと幸夫との出会いを通して、彼らと束の間の交流を持ったことによって、人間的な感情に目覚めていく。自分たちが何に加担しているか、何に組み込まれているかということに気づくというところは、この映画で必ず描きたいと思ったんです。

早川千絵監督が語る『PLAN 75』 理不尽さに対する若い人たちの気づきこそ希望と感動につながる

池ノ辺 ある程度の年齢の人が観ると、やっぱり自分が生きること自分が死んでいくことに対していろいろと感じると思うのですが、私はぜひこの作品は若い人たちに観てほしいと思いました。本当にあり得る話だと思いましたから。いま、世の中は生きづらくなってきている、逆に医療は発達して生きていることもできるようになっていく。この現代というところで、私たちはどういう未来を選ぶのか。そうしたことを考えさせられました。

その若い人の一人、ヒロムを演じた磯村勇斗君、監督からみていかがでしたか?