Mar 30, 2022 interview

信友直子監督が語る 家族ならではの至近距離で両親を見つめたドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』

A A
SHARE

ドキュメンタリーは私の天職

池ノ辺 東大を出て、森永でコピーライターになったかと思ったらグリコ森永事件で仕事がなくなっちゃって、その後、映像の世界に入って、ドラマのアシスタントプロデューサーから、ドキュメンタリーの世界へ。そして映画監督になっちゃった。すごく変わった人生を送られているわけですが、監督にとってドキュメンタリーはどんな存在ですか?

信友 私の天職だと思います。人の話を聞くのが好きなんです。話を聞いて、その人が何を考えているかを、その人の心の中にダイブして一緒に探して、ああこんなこと考えてたんだって、お互いびっくりしたね、みたいな瞬間がすごく好きで。カウンセリングにも似てるんですけど。

池ノ辺 今聞いていても、精神科の先生みたいだなって思いました。

信友 でも、最大の違いは、カウンセラーって守秘義務があるから絶対にしゃべっちゃいけないけど、ドキュメンタリーは、そこで話してくれたことを一緒になって世の中に発信していくことが出来る。それが出来るのは、この仕事しかないなと思っています。

池ノ辺 今回も、映画館にお客さんが詰めかけてくれると思いますが、公開を前にして、監督はどんな心境ですか?

信友 この2年ぐらい、コロナ禍でみんな心がささくれ立っていますよね。この映画に出てくる信友家は、ちっちゃい家で、お金もあるわけじゃない。だけど、そんな家でお年寄り2人が生きているのを見て、生きていくのも案外悪いことじゃないなっていう風に思ってもらったり、ちょっとでもコロナ禍の現実を忘れて、明日からまた頑張ろうかなって思ってもらえるといいなと思います。

池ノ辺 今、お父様はお元気ですか?

信友 101歳になりました。元気なんですけど、そうは言っても101歳だから私が呉に帰ろうかって心底言ってるんですけど、「いや、まだええ。あんたまだ東京で仕事あるじゃろう」って言ってます。でも、娘が映画を作ったことが嬉しいようで、今もこの映画の宣伝を買って出て、チラシやポスターを持って呉のいろんなところに営業に行ってるみたいなんですよ(笑)。

池ノ辺 ええっ!101歳の史上最高齢の宣伝マンですか?

信友 こないだ、小学校の同級生が「お父さん発見」って父が外を歩いてる写真を送ってくれたんですけど、シルバーカーにポスターとチラシを乗せて、いろんなとこに配りに行く姿が写っていました。もう本当に感謝しかないですね。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎
写真 / 吉田周平

プロフィール
信友 直子(のぶとも なおこ)

監督・撮影・語り

1961年広島県呉市生まれ。父・良則、母・文子のもとで育つ。1980年広島大学附属高校卒業。1984年東京大学文学部卒業、同年、森永製菓入社。広告部で社内コピーライターに。1986年制作会社テレパック入社。テレビ番組制作の道へ。1995年から制作会社フォーティーズへ。2009年自身の闘病を記録した「おっぱいと東京タワー ~私の乳がん日記~」を発表。ニューヨークフェスティバル銀賞・ギャラクシー賞奨励賞などを受賞。2010年独立してフリーディレクターに。主にフジテレビでドキュメンタリー番組を多く手掛ける。北朝鮮拉致問題やひきこもり、若年認知症などの社会的なテーマや大道芸人ギリヤーク尼ケ崎にスポットを当てた企画や草食男子の生態という文化的なテーマなど100本近くの番組を制作。2013年ごろから自身の父母を被写体として家庭内介護の様子を記録し始め、2016年、17年に「娘が撮った母の認知症」第1弾、第2弾としてフジテレビで放送される。これが大きな反響を呼び2017年「ぼけますからよろしくお願いします。 ~私の撮った母の認知症1200日~」としてまとめられBSフジで放送された。いずれも好評を博しそれが劇場公開へとつながった。2018年に『ぼけますから、よろしくお願いします。』で長編監督デビュー。全国99劇場10万人を動員する大ヒットとなる。令和元年の文化庁映画賞・文化記録映画大賞など数々の栄誉に輝く。

作品情報
ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。 ~おかえり お母さん~』

東京で働くひとり娘の「私」は、広島県呉市に暮らす90代の両親を1作目完成後も撮り続けた。2018年。父は家事全般を取り仕切れるまでになり日々奮闘しているが、母の認知症は進行し、さらに脳梗塞を発症、入院生活が始まる。外出時には手押し車が欠かせない父だったが、毎日1時間かけて母に面会するため足を運び、励まし続け、いつか母が帰ってくるときのためにと98歳にして筋トレを始める。その後、一時は歩けるまでに回復した母だったが新たな脳梗塞が見つかり、病状は深刻さを極めていく。そんな中、2020年3月に新型コロナの感染が世界的に拡大。病院の面会すら困難な状況が訪れる。それでも決してあきらめず奮闘する父の姿は娘に美しく映るのだった。

監督・撮影・語り:信友直子

配給・宣伝:アンプラグド

©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

2022年3月25日(金) 全国公開

公式サイト bokemasu.com

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
映画が大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」記事一覧はこちら