Mar 30, 2022 interview

信友直子監督が語る 家族ならではの至近距離で両親を見つめたドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』

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テレビから映画へ、大きな反響が父にもたらしたもの

池ノ辺 テレビで大きな反響を呼んで、追加取材と再編集して劇場公開されたのが、『ぼけますから、よろしくお願いします。』ですね。映画になるっていうのは、どんな感覚でしたか。

信友 私が映画監督になるなんて思ってもいなかったので、ちょっと夢みたいな感じもしました。ただ、そうは言ってもテレビだったら無料で見られるから、気楽に見てくれるかもしれないけど、お金を払って映画館に観に来る映画はどうなのか。それに出てるのは無名の年寄りじゃないですか(笑)。

池ノ辺 監督のご両親ですからね。でも、娘じゃないと撮れない距離感が素晴らしいですよ。観ているうちに、自分の両親を見ているような気分になるんです。

信友 多くの方が観てくださってびっくりしたし、ありがたかったです。

池ノ辺 テレビと映画では、反響に違いはありましたか?

信友 認知症は誰がなってもおかしくない病気だから、自分がなるかもしれない、自分の親がなるかもしれないって思って観てくださるのは一緒でした。でも、テレビでは視聴者の反応はメールでしか分からないんですよ。だけど映画って、上映されている映画館に行ったら、みなさんがどの場面で笑うか、どの場面で泣き声が漏れてくるか、終わって明かりがついた時に、どんな顔をしておられるのか如実に伝わってくるんですよ。私にも声をかけてくださるし、映画監督ってものすごく嬉しい職業だなって思いました。

池ノ辺 今回は、脳梗塞で入院されているお母様のところへ、98歳のお父様が毎日お見舞いに行くシーンがあるんですが、あれって、ものすごく体力が必要でしょ?

信友 大変だと思いますよ。片道1時間くらい歩いて、毎日行ってるわけですからね。雨の日も風の日も行っているわけですから、それはすごいと思います。

池ノ辺 お買い物に行ってご近所の方としゃべったり、前作の映画が公開されて舞台挨拶される様子も出てきますね。お父様って、あんなに社交的な人でしたっけ?

信友 母が元気だった頃は、ご近所づきあいは全部母がやっていたから、父は家の中で、ただ本を読んだりしているだけだったんですよ。寡黙な人でそんなに冗談とかも言わなかったし、あんな可愛いキャラじゃなかったんですよ(笑)。でも、母が認知症になって、父が家事を肩代わりして、ご近所との付き合いも父がやるようになったら、どんどん人好きのするおじいちゃんになってきたんです。最初のうちは母のことも「わしが面倒をみるけん、他人には世話にならん」とか言って頑固だったんですけど、途中から介護サービスのヘルパーさんや、ケアマネさんと仲良くなっていくと、どんどん甘え上手になってきて(笑)。「年寄りにとっての社会参加は、人に甘えることなんじゃのう」って。

池ノ辺 地元の映画館でも、観客の方から話しかけられたりしていましたね。

信友 映画を公開して良かったなと思うのは、呉でちょっとした人気ものになったんですね、父が(笑)。外を歩いていると、「お父さん、お父さん」って声がかかったり、「今日はどこ行くんね?」とか言われたりすると、父も嬉しくなるみたいで。新しい生きがい、張りになっているような感じがあるんです。私にとっても、呉の町全体で父を見守ってくれているような感じがして安心しますね。

池ノ辺 お母様の素敵な面もすごく良く出ていて、この映画にとても喜んでくれているんじゃないかなって思います。