Mar 30, 2022 interview

信友直子監督が語る 家族ならではの至近距離で両親を見つめたドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』

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東京で仕事に追われて暮らす娘が直面した、広島・呉に暮らす母の認知症発症。高齢の父による老老介護が始まり、娘は仕事を続けるか実家に帰るか、岐路に立たされる。その揺れる心情と共に、カメラを手にした娘が両親を撮ることで生まれたドキュメンタリー『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018年)。普遍的な家族の姿と、高齢化社会で誰もがいつか直面する出来事を深刻になりすぎず、ユーモアを交えた視点で描き、大きな反響を呼んだ。全国約100館で上映され、観客動員約20万人という異例のロングランヒットとなり、令和元年度文化庁映画賞・文化記録映画大賞を受賞するなど、高い評価を得た。

そして、続編となる『ぼけますから、よろしくお願いします。 〜おかえり お母さん〜』が公開された。その後、母の認知症は進行し、脳梗塞までも患うことになって入院を余儀なくされる。そんな母を見舞って、毎日1時間かけて病院に通い続ける父。

家族ならではの至近距離で両親を見つめた信友直子監督に、映画大好きな業界の人たちと語り合う予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画作りの秘話をうかがいました。同じ世代とあって、2人の対話は若き日に映像業界へ飛び込んだ女性たちが、どのようにしてキャリアを重ねていったかも回想されます。

認知症になった母、老老介護の父を撮る覚悟

池ノ辺 監督こんにちは! 監督と私は年代も同じで、名前も同じ“直子”なんですよ(笑)。

信友 親近感がありますね(笑)。

池ノ辺 『ぼけますから、よろしくお願いします。 〜おかえり お母さん〜』、本当に素晴らしかったです。前作の『ぼけますから、よろしくお願いします。』にも感銘を受けたんですが、私は劇場公開される前にテレビで放送されたものを最初に見ていたんです。

信友 『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で放送した時ですか?

池ノ辺 そうです。番組内のコーナーで2週にわたって放送されましたよね? それを見て大泣きして。すごいものを撮った人がいるなって思ったんですけど、あの時は反響がすごかったんじゃないですか?

信友 ものすごく感想が来たんですよ。うちはこうなんですっていう話が多くて。皆さん、自分の事としてご覧になったんだなっていうことを感じました。でも、『Mr.サンデー』のプロデューサーから最初に声がかかった時は、実は一回お断りしてたんですよ。

池ノ辺 それはどうして?

信友 自分だけのことだったらまだ判断できるけど、実名も出して母が認知症です、父が老老介護してますっていうことをカミングアウトするわけじゃないですか。親は娘のために放送して良いよって言ったとしても、本当はプライドを傷つけてしまうんじゃないかと思って。でも、父に話したら、「わしらは何も恥ずかしいことはないんじゃけん、あんたの仕事なら、いくらでも協力する」と言ってくれて。ですから、おっかなびっくりだったんですよ。娘が親の老老介護を撮ってるわけですから、撮ってる暇があったら介護しろよって言われるんじゃないかとか、親をダシにしてると思われるんじゃないかとか、色んな不安がありました。ただ、スタジオのゲストだったヤマザキマリさんが、「覚悟を持って出してくださったことをすごく感謝しています」と、言ってくださって。その言葉にすごく救われました。

池ノ辺 放送後は、実家では何か変化はありましたか?

信友 信友ってすごく珍しい名字だから、呉で信友というと、どこにいるかもすぐ分かっちゃいますよね。年寄りだけで暮らしているから、それこそ詐欺や怖い人が来るんじゃないかと心配して。だから放送後2週間くらいは、家にいて見張りをしたんです(笑)。そうしたら、見てくださっていていたご近所の方から、「あんた、はように言うてくれりゃ良かったのに」って。

池ノ辺 あら、ご近所からそんな反応が。

信友 それまでも、別に隠してたわけじゃないんですけど‥‥やっぱり隠してたのかな。母が認知症だというのを、ご近所に言ってなかったんですよね。どこか恥ずかしいと思ってたんでしょうね。だけど放送後は、ご近所の方が「お母さんね、どこかちょっとおかしいんかなと思っとったけど、あんたもお父さんも言わんから」とか、「早目に分かっとったら、あんたが東京におる間、私がいくらでもフォローしてあげたのに」とか言ってもらって。

池ノ辺 ご近所の方に知ってもらうと、自分の目が届かないところでも、気にかけてくれる人がいるから安心ですね。