Dec 29, 2021 interview

目指したのはエンタメと問題意識のバランス 坂下雄一郎監督が語る『決戦は日曜日』

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流れるように生きながら運を掴む

池ノ辺 監督が、最初に観た覚えてる映画はなんですか?

坂下 『ドラえもん』だったと思います。アニメ以外だと『学校の怪談』だった気がします。

池ノ辺 『学校の怪談』は私が予告編を作ったんですよ (笑)。それはともかく、そうやって映画を観ながら、映画を作る道に進もうと思って大阪芸大を選んだんですか?

坂下 その前に通信制の高校に通っていたんです。だから学校自体にはあまり行かなくて良かったんです。月に1回か2回行って、あとは宿題みたいなのをしていれば良いので、ずっとアルバイトをしていました。実家でバイトをしていたのでお金が結構稼げたんです。

池ノ辺 バイトに時間が割けるから収入もいいわけだ(笑)。

坂下 そうです (笑)。それでテレビとかDVDプレーヤーとか買って、映画館やTSUTAYAにも通い出したんです。

池ノ辺 大阪芸大に行こうと思ったのは、どういうきっかけですか?

坂下 僕は高校以降のことは考えてなかったんですけど、大学行った方が良いなと思うようになって、そのときに映画の道も良いなと思ったんです。映像学科へ入って、1年生のときはいろんな部署を経験して、3年生になると卒業制作に向けて、やりたいポジションを決めるんです。やるなら監督だなと。

池ノ辺 そうやって大学で4年間を過ごして、その後はどうしようと思ってたんですか?

坂下 特に何も考えてなくて、どうしようと思っていたら大阪芸大で助手を募集していて、とりあえず働くかと。それで卒業後2年ぐらい助手として働いたんです。

池ノ辺 助手って授業の手伝いをしたりする仕事ですか?

坂下 出席を取ったり、資料を作ったりみたいな仕事ですね。ただ、これもずっとは出来ないんです。3年ぐらいで辞めなきゃいけなくて。それで、どうせ映像関係のことをやるなら東京へ行った方が良いなと思ったんですが、身一つで行くのも怖いと思って、学校へ行くという口実ならと受験しました。

池ノ辺 それで卒業後に、東京藝大の大学院で映像研究科映画専攻にも行ったんですね。お話を聞いていると、前々からこれをやりたいと決めるというよりは、その時々の流れの中で、いちばん良い選択をされてきたんじゃないですか?

坂下 運が良かった気がします。どこかで1年ずれていたら、また違った人生だった気がすごくしています。実際に、東京藝大で作ったもののつながりが、後に声をかけてもらったりする関係性につながったりもしていますし、その年に作った卒業制作の『神奈川芸術大学映像学科研究室』は、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」で賞をもらうと劇場公開できる制度によって公開されたんですが、その制度も僕の年で終わっちゃって、1年後だったら劇場公開も無かったので、タイミングが良かったと思います。

池ノ辺 じゃあ、1年ずれていたら、監督はここにもいなかったもしれないわけですね(笑)。

坂下 そうなりますね。

池ノ辺 最後の質問です。監督にとって「映画」ってなんですか?

坂下 今は公開と同時に配信などもあるので、「映画」に対する考えがいろいろ変わっていて、現時点では、「映画」について色々と考え方が揺れています。

池ノ辺 なるほど。監督にとって「映画」=「劇場で観る」っていうことですか?

坂下 自分が作っているときも劇場で上映することを想定して画も音も作っているので、映画は劇場で見た方が良いとは思うんです。でも、配信だと劇場では見ることができない方まで届く可能性があるし、そういう環境で映画を発見することが面白いと思うこともあると思うんです。だから、「映画」は今後、いろんなものと共存していくことができればよいなと思います。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 吉田伊知郎
撮影 / 吉田周平

プロフィール
坂下雄一郎 (さかした ゆういちろう)

監督・脚本

1986年6月10日生まれ、広島県出身。大阪芸術大学映像学科、東京藝術大学大学院映像研究科を卒業。在学中から自主制作で活動を続け、12年に監督作『ビートルズ』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2012で北海道知事賞を受賞。翌13年にはオムニバス映画『らくごえいが』の一編を監督し話題を呼ぶ。同年、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013にて自主制作映画『神奈川芸術大学映像学科研究室』が長編部門の審査員特別賞を受賞。以降、オリジナル脚本でコメディ作品を次々と発表し続けている。

 Filmography

2010年 『実家に帰ろう』 脚本・監督
第21回TAMA CINEMA FORUM出品
2011年 『ビートルズ』監督
第22回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 北海道知事賞受賞
2013年 オムニバス映画『らくごえいが』の一編「猿後家はつらいよ」監督
2013年 『神奈川芸術大学映像学科研究室』(大学院修了制作)脚本・監督 
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 審査員特別賞(長編部門)受賞
2017年 『エキストランド』脚本・監督
2017年 『東京ウィンドオーケストラ』脚本・監督
2018年 『ピンカートンに会いにいく』脚本・監督
2022年 『決戦は日曜日』脚本・監督

作品情報
映画『決戦は日曜日』

とある地方都市。谷村勉はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが、暮らしていくには満足な仕事と思っていた。ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々。でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす。それは選挙に落ちること・・・前代未聞の選挙戦の行方は?

脚本・監督:坂下雄一郎

出演:窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈、小市慢太郎、音尾琢真

配給:クロックワークス

©2021「決戦は日曜日」製作委員会

2022年1月7日(金) 全国公開

公式サイト kessen-movie.com

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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