Sep 17, 2021 interview

[ 映画は愛よ ! 特別編 ] 「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター河瀨直美監督と語る、次世代の才能の発掘への想い

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子どもたちの命が輝く体験に、大人も学ぶ

河瀨 その枠の中からはみ出てしまうような子たちが、どちらかというと自分を表現したいとアート系に行ったりすることが多いというのはあります。そういう現場では、人と違っていい、むしろ人と違う感性が生かされていくというような世界で、空は青色でなくてはいけないのではなく、ピンクだっていいじゃないかというのは、そういう子たちにとってはものすごく世界が輝いて見えるような体験だと思うんです。

これまで教育の現場では、どちらかというとなにか箱の中に押しとどめてしまって、子どもたちの感性を生かしきれないということに遭遇することが多かったのですが、今はだれでも端末で映像を創ることができる時代です。だったら、これからはもっと教育の現場にも活用してほしいと思います。例えば、ネガティブな人生の体験をポジティブに変えられる力が、映画にはあると私は思っていて、逆に社会を闇に落とし込むような影響力も映像というのは持っている。しかもボタン一つで世界に発信することもできる。じゃあ、これをどう使い、何を表現し、その影響力はどうなのか、そうしたことを、大人も含めてむしろ教育現場できちんと議論し学ぶ機会があるといいと思っています。

今回のワークショップは、映画の宣伝・広報ですから、その映画の良さを考えて届けたい人をイメージしていろいろやったわけですが、これはこの先映画に携わる携らないにかかわらず、生きていくうえで人と関係を結んでいくためのすごく大切なことにつながると思うのです。それを教えたり、伝えたりする場があまりにもなさすぎると思って、もったいないなと思っていました。

池ノ辺 そういう体験をこの年齢でできたという、それは彼らにとっても素晴らしい財産ですよね。実際に彼ら自身も、自分たちがちゃんとしておかないと次の世代の子たちに渡せないと、そこまで考えているようでしたから、ホント、たいしたもんだわとつくづく思いました。

[ユースシネマインターン2021生メンバー]

河瀨 ほんとです、彼らが創り上げていったその過程から大人に見てもらいたいと思いました。

池ノ辺 そうです、私も勉強になりました。うちの会社にも学校出たてで入ってくる子たちがいますが、彼らに対してどう接するか、考えさせられることもありましたし。

河瀨 社会に出て、仕事という形になると、時代がスピードを求めているということもあるのですが、結果としてとにかくこなすという、ルーティーンの仕事にどうしてもなってしまう。そうすると、本当は何がしたかったのかを見失ってしまったりするわけです。彼らと接することで、その原点のところに立ち返らされた気がしますね。体験があった分だけ何か言えるのではなく、彼らが産み出した新しい言葉、創り出すエネルギーがとにかくまぶしくて圧倒されました。

例えば、池ノ辺さんが、こんなことができますよとアドバイスしたら、「わあ、ありがとうございます」と彼らは本当に感動して感謝してそこに一生懸命応えようとする。

池ノ辺 最初にこの業界に入った時に自分が感じた新鮮さ、なんでも吸収してみようという気持ちを思い出したなと。私の方こそありがとうございますと思いました。

河瀨 今回、前半はオリンピックで入れなかったのですが、後半入ってみると池ノ辺さん自身が感動されているのも感じたし、池ノ辺さんの「これは素晴らしいわよ」という言葉が、さらに彼らを引き上げるというのが見えたんです。こういうワークショップでは、先生が一方的にこうだと伝えていくよりも、あなたたちすごいねと言うことで彼らの命が輝く。そこがすごく大事だと思う。もちろんプロがやったのと比べればまだまだ稚拙だし、もっと細かいところで指示することはできるかもしれないけれど、このレベルでつくったのなら、次にはそれを拡散してゆく方が、体験として生きる。先生がそれにダメ出しするのではなくて、いいも悪いも市場に出してその結果を受けとめるという体験は、学校などでの学び以上にまさに世界からの学びになるので、それを促すようにやっていただいたのは本当にありがたいと思いました。

池ノ辺 つくったものを世の中に出して、世の中に出たものを世の中がどう感じたか、またそれがフィードバックされるという体験をしていくというのは本当に素晴らしいと思ったし、ダメ出しするような言葉も思いつかない。素晴らしくて言葉がないという感じでしたから。

河瀨 私は宣伝もクリエイティブだと思っているので、彼らが自分たちの体験を通じて、大人がルーティーンにしてしまっているものを逆にいい形で壊していってくれる。そんな頼もしい若者がここから育ってくれたらいいなと思います。