Sep 17, 2021 interview

[ 映画は愛よ ! 特別編 ] 「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター河瀨直美監督と語る、次世代の才能の発掘への想い

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奈良を拠点に映画を作り続けてきた河瀨直美監督をエグゼクティブディレクターに迎え、2010年から始まった「なら国際映画祭」は、2年に1度開催され昨年2020年で10年目を迎えた。この度、芸術の力で次世代を担う子どもたちの応援プロジェクトとして、これまでのプレイベントを「なら国際映画祭 for Youth 2021」という新たな名称に変え、2021年9月18日(土)〜20日 (祝・月) の3日間にわたり開催する。会期中は、次世代の才能を発掘するための3つのプログラム「ユース映画制作ワークショップ」「ユース映画審査員」「ユースシネマインターン」で映画祭を盛り上げる。予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』。今回は[特別編]として、河瀨直美さんに本プログラムの魅力をうかがうとともに、予告編制作のアドバイザーとして参加した池ノ辺直子が、河瀨直美さんと共に開催を直前に控えた「なら国際映画祭 for Youth 2021」に感じた熱い思いをお伝えします。

3つのプログラムで盛り上げる「なら国際映画祭 for Youth 2021」

池ノ辺 今週末に開催される「なら国際映画祭 for Youth 2021」について、この映画祭のエグゼクティブディレクターを務める河瀨直美監督と、ワークショップに参加した感想などを中心にお話ししたいと思います。河瀨さん、東京オリンピックの公式映画の監督をされていましたが、撮影は大変でしたか? 完成したら劇場でも公開されるんですよね。

河瀨 もう、これでもかというくらいにいろんなことがありすぎて、ただ単純にアスリートにカメラを向けるというお話ではなかったです。それにテレビで既に放送されたものを撮ってもしょうがないですから、むしろ背景を撮ったという感じでしょうか。もちろん完成したら劇場公開する予定です。ただ、劇場公開できる2時間か長くて3時間、そのサイズにまとまるかなと。素材が3000時間あるんですよ。それを今、10人くらいでチェックと分類をしていて、まだ私が見る段階まで行っていないです。

今回のオリンピックは、8割反対なんて言われていましたけれど、それでも人が輝いている姿というのは本当にエネルギーをもらえますね。アスリートの皆さんからもめちゃくちゃパワーをもらって、もうアドレナリン出まくりです(笑)。

池ノ辺 完成が楽しみです。さて河瀨さんがエグゼクティブディレクターを務める「なら国際映画祭 for Youth 2021」ですが、今回からタイトルが変わったんですよね、これは次世代の子どもたちの才能を発掘する映画祭と捉えていいんですか。

河瀨 はい。主に13歳から18歳の中学生・高校生が参加するプログラムです。「なら国際映画祭」の本祭は、2年に1度なんですけど、ユースプログラムはもちろんのこと、若手の映画監督を中心にコンペティションをやっています。コンペティションでグランプリを受賞した監督には、私がプロデュースしている「NARAtive」という映画製作プロジェクトの監督になってもらう。見せるだけじゃない映画祭、クリエイティブな映画祭というように位置付けているのです。その「NARative」第6弾『再会の奈良』の特別上映も今週末に行われます。

池ノ辺 その本祭は隔年だけどYouthは毎年だということで、「for Youth」にしたんですね。

河瀨 そうです。今回は3つのプログラムがあって、1つが「映画制作ワークショップ」。これは、8月15日からの1週間、奈良に滞在して映画をつくるものです。企画立案、ロケハン、それで撮影をするというのを行い、最終日には昔からある旧市内の商店街の中にある春日大社の大宿所で「星空上映会」をしました。これがワークショップとしての最初のお披露目会ですが、「なら国際映画祭for Youth 2021」の最終日にも上映会と彼らの舞台挨拶があります。こちらは無料でご覧いただけます。

池ノ辺 それから、審査員のプログラムがありますね。

河瀨 これは9月18~20日のイベント期間中に、「ベルリン国際映画祭」からの長編5作品と、「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」からの短編5作品を、それぞれ5名ずつが審査員として見て審査をするというものです。

この企画は今回で3回目なんですが、過去の2回も非常に感動的でした。私たちはどうしても彼らを子ども扱いして、こういう映画はわからないのではないかとか、理解が追いつかないのではないかと思いがちなんですけど、全くそんなことはないです。事前に情報は出さないのですが、みんな必ずゴールデンベアやアカデミー賞を獲った作品を選ぶんですよ。控室での彼らのミーティングを見ていると、どう思ったか、ただ順番に発表するというようなレベルではなくて、例えば自分はこう思ったけどどうなの? と投げかける。そしてその発言が、お互いにリスペクトし合っていて、自分の意見は持っているけれど、決してそれを曲げないというのではなく、誰かの発言に影響を受ければそれもきちんと受け止めるのです。大人たちはそのミーティングには全く口出しせずに見ているだけです。

中学生と高校生が参加しているので、最大6歳の差がありますから、当然、年上の子たちの方が弁が立つというか理論的に発言できるのですが、その分高校生たちが、中学生たちの発言を汲み取ってあげるというか、彼らが言わんとしていることを、それはこういうことなの? と引き出してあげるんですね。それがすごいと思いました。

池ノ辺 うわあ、今聞いているだけでも鳥肌が立ってきました。そして、3つめが私も参加させていただいたプログラム、配給宣伝・広報活動の「ユースシネマインターン」。このプログラムでは最終日に映画を上映するのですが、その宣伝企画・広報活動などのプロモーション活動を“ユースシネマインターン2021生”のメンバーが担当して、フライヤー・予告編映像・ポスター・Webサイトなどの企画から制作やメディアなどに対するパブリシティまでを行っています。これは初めての試みですか?

河瀨 実は昨年に1度やっているのですが、その時は予告編はなくて、フライヤーもプロのデザイナーさんに文字を渡して作ってもらうというものでした。ポスター、予告、フライヤーと、彼らがすべて自分たちで一から始めるというのは初めてです。今回はリム・カーワイ監督の作品『いつか、どこかで』を取り上げて、どうしたらこの映画を多くの人に知ってもらえるか、映画の魅力が伝わるか、宣伝戦略からアクションプランまで自分たちで作っています。

(予告編制作: 瀬戸紫英 / ユースシネマインターン2021生)

池ノ辺 今回最初にお話をいただいて、予告編の作り方をお話ししてくれますかといわれたときにまず思ったのは、オンライン上で何をすればいいの? と。まあ、実際にどうなるかは流れに任せましょうみたいな話だったので、最終的には私が持ち帰ってそれを形にするところまで考えなければならないのかなと思っていたら、全くそんなことはなくて本当に驚きました。

河瀨 今年は特に、全体を見てバランスよく引っ張っていくことができるリーダー資質の子がいて、その子の誘導で皆がどんどん活発なやり取りになって、全体としてぐっと上がっていくのがすごかったですよね。

池ノ辺 こういうことって、きっと学校の授業ではやっていないでしょう?

河瀨 私もそう思いました。特に日本の学校教育では、どうしても先生対生徒という形になって、先生に言われたことを覚えるとかそれに従うとかが美徳となってしまっている。私の息子も小学校は地元の公立だったので、聞く限りはそうでした。例えば欧米の学校のような車座になってそれぞれが自分たちの意見を自由に言えるような空気感みたいなものは、日本では少ない気がします。

池ノ辺 そういう中で、自分を表現する機会は貴重ですよね。