Aug 07, 2021 interview

映画『キネマの神様』アートディレクター 森本千絵 クリエイティブで人と人の縁をつなぐということ

A A
SHARE

フィルムの感光で描く過去と今

池ノ辺 この広告のあと、映画のポスターが作られたわけですね。すごく鮮やかで過去と今を光でつつみこむような光彩も印象的なのですが、どのようにして作っていったんですか。

森本 神様がフィルムとフィルムの間に宿っているような、見えないものに思いを馳せるということを、動画じゃなくてビジュアル1枚で伝える広告ということで、光のゆらぎというか、感光をイメージしました。

池ノ辺 フィルムに光があたると感光するって言いますね。

森本 フィルムが感光すると、そこは虹色のようにいろんな色が混ざっていて、かすかに見える部分がある。それでポスターも感光させてキャストを紹介するという形で進みました。

池ノ辺 キャスト1人ずつのポスターを見ると、感光した部分にいろんなものが写っているんですね。

森本 普通だったら、菅田将暉さんのところは、菅田さんだけなんですが、そこにかすかに汽車だったり、撮影所だったり、永野芽郁さんや、後ろの方の方に沢田研二さんと宮本信子さんが2人でスクリーンを見つめる横顔がうっすらと感光して写っているんです。

池ノ辺 私がびっくりしたのは、各キャストのポスターを横につなげると、実は1枚の大きなポスターになるんですね。

森本 現代と過去のフィルムが人生のように織り混ざって照らしているという形で作ったので、すべてのポスターをつなげると、感光の中でそれぞれの時代が混ざり合って、一人一人の人生がつながっていく様子を描いています。

池ノ辺 それとキャスト別のポスターには、それぞれ違うコピーが付いているんですね。

森本 佐倉さんの言葉が本当に美しくて。一人一人の人生に沿った具体的なものもあれば、この『キネマの神様』がみんなにとってどういう存在かということも込められていると思います。ですから、一人ずつ写っているポスターは、背景に写し出されている感光した部分のディテールやコピーの言葉を、映画を見終わってから、ゆっくり見て楽しんでもらえるんじゃないかと思います。

池ノ辺 ポスターの後は、パンフレットのデザインですか?

森本 パンフレットは台本の表紙から、それぞれのポスター、全員の写っているポスター、志村さんの写った新聞広告すべてが一冊になったような形です。