舞台挨拶の司会をはじめ、映画コメンテーターや、映画レビュー執筆でも大活躍の伊藤さとりさん。新型コロナウィルスによる緊急事態宣言の余波は、映画と共に生きる伊藤さんの仕事にも大きな影響を及ぼしたといいます。映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子も、代表を務める予告編制作会社バカ・ザ・バッカの運営を進める上で10 年先を見越した決断を下したそうです。『映画は愛よ!』の特別編として、現状の問題も含め、今だからこそ話したいことを二人が語り合う特別企画。第2回は日本映画を中心に、公開延期になって待ち遠しい新作映画の見どころから、関連する過去の作品まで、話題は縦横に広がっていきます。
超能力が描く世界
池ノ辺 配信やDVDで昔の映画を見る時間が増えたと思いますが、最近は何を見ましたか?
伊藤 私、りん・たろう監督、大友克洋キャラクターデザインの『幻魔大戦』(1983年)がすごく好きなんですよ。それで、大友さんが監督した『AKIRA』(1988年)が池袋グランドシネマサンシャインでIMAX上映が決まったのに合わせて、『幻魔大戦』も特別上映されることになったので、行く気まんまんだったんです。行けなかったから家のDVDで見直したけど、やっぱり面白い!しかも、美輪明宏さんの声は、宇宙の神秘そのもので五感に伝わって来るし、角川映画だから原田知世さんもボイスキャストに入っていて。
池ノ辺 『AKIRA』の前に、『幻魔大戦』があったわけですよね?
伊藤 超能力を持った人たちが力を合わせて戦うっていうのが『幻魔大戦』で、『AKIRA』は特殊能力を持った少年の話。だから『幻魔大戦』を見ると、原点のジャパニメーションの力強さ、ぶっ飛び方っていうのを見直せました。主題歌の『光の天使』なんてエンドロール見ながら歌っちゃいましたよ(笑)。
池ノ辺 超能力っていえば、私が最近はまったのはドラマ『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(2014年)。小栗旬ってこんなにカッコよかったんだって思っちゃったぐらい面白かった。それで、彼は今どうしてるんだろう?と思ったら……。
伊藤 ハリウッドですよ!『ゴジラVSコング』に出ているんです。アメリカでは11月に公開予定だったので、日本も同じ頃だろうと言われていたんですけど、延びるかもしれないですね。
歌に寄り添う映画『糸』
池ノ辺 近日公開になってしまった『糸』はどうでしたか? 菅田将暉、小松菜奈の主演ですね。
伊藤 音楽があって、そこから物語を紡ぐという形の『涙そうそう』(2006年)とか『ハナミズキ』(2010年)の流れで作られているんです。それで、やっぱり菅田将暉さんはすごいと思って。昔から身体能力のある俳優さんだなと思っていたけど、シネコンで見られる恋愛モノから、ミニシアターの『タロウのバカ』(2019年)までやりきれるわけですよ。彼は。
池ノ辺 本当にそうね!
伊藤 『糸』では、北海道の田舎町の男の子という設定だから垢抜けていないのだけど、こんなに魅力的に人間味をジワジワ出してくる俳優さんってそういないと思いましたね。小松菜奈さんも映画女優然としていて見惚れてしまう。それから中島みゆきの『糸』という歌のメッセージって素晴らしいですよね?
池ノ辺 この歌、結婚式でみんな歌うのよ 。
伊藤 糸って台詞の中でもちょっとずつ出てくるけど、一本ずつが絡み合うことでひとつの紐になっていくじゃないですか。でも、切れるときだってある。映画の中でも言ってるんですが「切れる糸だってある。でも切れてもその先につながる」って。
池ノ辺 別の糸があるわけね。
伊藤 そう。それが運命を意味してるわけじゃないですか。ここで別れたとしても、また再会するパターンもあるし、他の人と出会うかもしれない。1人じゃなくて他の人と繋がっていくことで、より強く人生を歩めていけるんだよっていう。映画を見ながら『糸』の歌詞と共に実感していくわけですよ 。
池ノ辺 中島みゆきの歌がかかるの?
伊藤 しっかり流れます。本当に歌に寄り添っている映画なんです。
池ノ辺 ずいぶんテレビ、雑誌、インターネットでも広告展開をずっとやっていた映画だけに、改めて公開されるのを待ちたいですね。
『糸』公式サイト: https://ito-movie.jp/