Oct 26, 2017 interview

第4回:人生を振り返る指針となるものが僕にとっての映画です。

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久松

そう、消極的になってしまって、お客が入らないから宣伝費も削ろうとみんながマイナスのスパイラル思考に陥っているときに、逆のことを指摘されて、それであの作品は結構な宣伝費をかけて、それで大ヒットしたんです。

ヒットを作り出すのって、送り出す側の自信というか気持ちの問題もすごく大きいので、そこからワーナーも強気に攻めるようになった。

その後、『マディソン郡の橋』が来てね。

池ノ辺

あ!それも予告編作らせてもらいました ! (笑)。

結局ワーナーにはどれくらいいたんですか?

久松

5年間いました。

池ノ辺

それで、また松竹に戻られるんですよね ?

久松

そうです。

ある朝、突然、松竹の役員の方から電話があって、大きな組織改革があったと。

僕はそのときちょうど、ワーナーの営業本部長から副代表にならないかと話が来ていて、あとは契約書を交わすだけの時だったんです。

ちょうど、『マトリックス』の来日キャンペーン中で、キアヌ・リーブスが来ているときだったから、契約書の作成に時間がかかっていて、ようやく届くというときの電話でした。

で、結局、僕はその契約書にサインせずに、松竹に戻るという決断をしたんです。

池ノ辺

なるほど。

やっぱり、古巣に戻りたくなった?

久松

その前、松竹では中途半端な辞め方をしていましたし、いろいろな思いがありましたからね。

池ノ辺

去年、この「映画は愛よ !! 」に出て頂いた、松竹の映画宣伝部 宣伝企画室長の諸冨謙治さんもマーケティングの重要性を話されていましたね。

さて、第30回 東京国際映画祭も、無事開幕して、華やかにレッドカーペットやオープニングセレモニーも行われました。

久松さん、いかがでしたか?

久松

雨の中、たくさんの人に来ていただきました。

レッドカーペットに登場したゲストは今までの映画祭の中で最多人数だったようです。

「Japan Now」部門 特別企画【銀幕のミューズたち】安藤サクラ、蒼井優、満島ひかり、宮﨑あおい ©2017 TIFF

池ノ辺

それはすごい!

とても華やかなオープニングになりましたね。

今年のSAMURAI(サムライ)賞は作曲家の坂本龍一さんに決まられて、特別招待作品部門にてドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto:CODA』も上映されますけど、とってもいい作品ですね。(※SAMURAI賞: 比類なき感性で「サムライ」のごとく、常に時代を斬り開く革新的な映画を世界へ発信し続けてきた映画人の功績を称える賞。ー第1回目の受賞者:北野武監督、ティム・バートン監督、第2回目:山田洋次監督、ジョン・ウー監督、第3回目:マーティン・スコセッシ監督、黒沢清監督))。

うちのバカ・ザ・バッカのスタッフが予告編を作らせてもらったんですけど、制作中に『戦場のメリー・クリスマス』の曲をなんとか使いたいと、いろいろ交渉して、使用許可がでて、素晴らしいものになったんですよ。

久松

ええ。

予告編もいいし、本編もいい。

坂本さんの、新しい音に出会った時の子供みたいな顔で笑う、その笑顔がとても素敵でね。

池ノ辺

まだ今年の映画祭が始まったばかりですが、来年に向けて、抱負はありますか?

久松

映画祭は映画文化が大事ということで、作家性の強いものに重きが行くのは当然なことですし、それはとても大事なミッションです。

でも一方で、映画って資金のかかるメディアであり、お金を回収していかないと産業自体が衰退してしまう。

だからシネフィルと言われる映画ファンが満足するプログラムをそろえると同時に、年に1本2本、『君の名は。』や『美女と野獣』を見に行きますという映画ファンの方でも楽しく参加できるものを用意しないといけない。

敷居の高い、難しい映画ばかりやっている映画祭だと、一般の映画ファンは離れてしまいますからね。

僕が『トリビュート・トゥ・ミュージカル』の部門にこだわったのはそこでもあるんです。

やっぱり映画を見て楽しかったな、という思いがないと、また見たいと思わってもらえない。

映画の楽しさをつなげていきたいんです。

第30回東京国際映画祭 コンペティション部門国際審査委員メンバー ©2017 TIFF

池ノ辺

素晴らしい !

では、最後に皆さんに必ず聞く質問です、「久松さんにとって映画とは?」。

久松

僕にとっては人生そのものかな。

そうとしか言いようがないな。

池ノ辺

お話を聞いていると、本当にそうですよね、早稲田大学に通っていなかったら、映画界には入っていないですよね。

久松

僕は映画マニアじゃないんですよ。

映画祭の事務局にいると、辞書みたいに映画に詳しい人がいて、パンフレットは必ず買って、うんちくをすごくいっぱい持っている人がいて感心するんです。

僕にはそういう知識は一切ないんですよ。

でも、映画だからずっと続けられているし、いい職業を選んだなとも思っている。

僕は過去を振り返ったとき、何年に何をしたとか、年代を全然覚えていない。

でも、なんの映画が公開されていたのは覚えている。

あの時はこんな映画があった、そういう人生を振り返るまさに指針となるものが僕にとっての映画です。

池ノ辺

人生を振り返る指針が映画っていうの、いいですね。

ありがとうございました。

では、私も東京国際映画祭楽しませていただきます。

池ノ辺直子から、久松さんへの「一筆御礼」

久松さんとは名刺を交換したことしかなく失礼なこと聞いちゃったらどうしようとか、どんなことを話せばいいのかと内心ドキドキしていた。それとは裏腹に久松さんは、たくさんの出来事を気さくに話してくれた。ここでは書けないことばかりだけど、映画業界を面白くしてきた一人だとわかる。

さて、スタートした東京国際映画祭 2017。雨の中たくさんの方が来てくれ、ゲストも華やかでとても楽しそうに歩いていた。「映画は面白い ! 」の原点に返った映画祭、みんなが参加できる映画祭 !! 週末の動員数も楽しみだ。

(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)


©2017 TIFF

第30回 東京国際映画祭

今年、第30回を迎える東京国際映画祭(以下 TIFF)は、日本で唯一の国際映画製作者連盟公認の国際映画祭です。

1985年に日本ではじめて大規模な映画の祭典として誕生し、日本およびアジアの映画産業、文化振興に大きな足跡を残し、アジア最大級の国際映画祭へと成長しました。創立時から映画クリエイターの新たな才能の発見と育成に取り組み、アジア映画の最大の拠点である東京に、世界中から優れた映画が集まり、国内外の映画人、映画ファンが新たな才能とその感動に出会い、交流する場を提供します。

今年のオープニング作品は『鋼の錬金術師』、オープニングスペシャル作品は『空海~KU-KAI』、クロージング作品は『不都合な真実2: 放置された地球」となります。

チケットの一般販売は1014日より開始中。

会期: 20171025日(水)~ 113日(金・祝)[10日間] 会場: 六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか。

公式サイト http://2017.tiff-jp.net/ja/

PROFILE

■久松猛朗(ひさまつたけお)

第30回東京国際映画祭 フェスティバル・ディレクター

1954年山口県下関市生まれ。78年松竹株式会社に入社。宣伝プロデューサー、映画興行部・番組編成担当等の勤務を経て86 にアメリカ松竹「リトル東京シネマ」の支配人となる。89 に東京へ戻り、興行部次長に就任。94年タイムワーナーエンターティメントジャパン株式会社に入社し、ワーナーブラザース映画の営業本部長となる。その後、松竹株式会社に再入社し、2001年取締役映画部門&映像企画部門を担当。03年に常務取締役に就任する。06年株式会社衛星劇場 代表取締役社長を経て、10年ワーナーエンターティメント・ジャパン株式会社に再入社。ワーナーブラザース映画 副代表となる。現在はマイウェイムービーズ合同会社 代表。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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