Apr 04, 2017 interview

第5回:プロデューサーは、撮影だけでなく 公開後のことも同時に考えないといけない。

A A
SHARE

池ノ辺

これは興行的にはどれくらい行ったんですか。

谷島

17億強。

池ノ辺

行きましたねえ。

谷島

行ったよ、こんな地味な映画で(笑)。

池ノ辺

ハッタリが効いた宣伝の勝利ですね。

谷島

そうだと僕は思っています。

翌年のカンヌ映画祭に出張で行ったんですけど、そこで世界のバイヤー(映画会社)から訊かれました、『海の上のピアニスト』はなんで当たったんだ?と。

なぜなら全世界で大コケした作品なんですね。

イタリア本国でもコケました。

アメリカでもまだこの時は公開されていなかった。

どうして日本だけこんな驚異的に当たったんだと言われたんです。

池ノ辺

なんて答えたんですか?

ハッタリだよと(笑)。

谷島

まあ、派手に見せましたと。

それから、〈海の上で生まれて一度も船を降りなかったピアニスト〉というストーリーコピーが強かったと思うんだよね。

池ノ辺

それは宣伝している時から、ずっと強調していましたね。

谷島

巨匠モリコーネの音楽も地味で、大して良くなかったのよ(笑)。

でもそれを「生涯船から降りなかったそのピアニストが奏でる曲は、かつて聞いたことのない神がかった曲であろう」と神秘的にし、観客の妄想を膨らませ、期待を高めていった。

池ノ辺

お〜!うまい宣伝ですね。

pgfkbmlchiblgnka

谷島

だから、生まれた映画をそっくりそのままお客さんに届ける宣伝方法もあるし、ものすごくハッタリで大きく見せて届けるのもある。

当てるために手段は選ばない。

池ノ辺

入口を開けておかないとお客さんは興味を持ってくれないし、開けたところから入ってこられない。

谷島

そうですね。

単館の宣伝をやっていてよかったと思うのは、単館って間口を狭める仕事じゃないですか。

1回の上映で120人ほど入ればいいので、間口を敢えて狭めてマニアを狙う。

少数のコア層にダイレクトに向かうんですよ。

それを延々と積み重ねてきたから、映画の核心を掴みながら、嘘はつかず、大きく広げることを学べていった。

『海の上のピアニスト』も、広い広い大西洋の真ん中に居ながらも、外の世界に出て行けない引きこもり青年の彷徨い、すなわち人間の哀しみの象徴というテーマが軸。

それを大ケールでロマンティックに見せていく。

だからハッタリは効かせているけど、見せたいもの、監督が問いたいテーマの核心はブレていないと思うんだよね。