- 池ノ辺
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息子さんも、お父さんが作った映画をちゃんと見ているらしいじゃないですか。
- 谷島
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実は彼、映画は嫌いなんです(笑)。
ただ私の作品は、そこそこ見ているらしくて、あの後、「やっと代表作ができたな」と偉そうなLINEが来て。
なんかバカ親みたいで嫌なんですけど、嬉しかったですよ。
- 池ノ辺
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『3月のライオン』の中で、桜がバーッと吹雪いているときに、義理のお父さん役の豊川さんと神木くんが会話をするシーンがあるじゃないですか。
あそこは谷島さんと息子さんがダブって見えましたね。
そういえば、息子さん高校に入って独立なさるんですよね?
- 谷島
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そうなんです、おかげさまで。
- 池ノ辺
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昆虫が好きだから、
周囲に昆虫がいっぱいいる学校を選んだんですって? 虫が好きなんですよね。
- 谷島
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自然環境の良い学校を選び、
ホームステイしながら通うみたいです。
- 池ノ辺
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いや、それは私も嬉しくなる話ですね。
- 谷島
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ありがとうございます。
- 池ノ辺
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だって、いち早く好きなことが見つかって。
独立は親からするとちょっと寂しいでしょうけど。
でも、『3月のライオン』が公開される3月に息子さんも自立して、人生のひとつの区切りでもありますよね。
- 谷島
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そうですね。
上手くそういうタイミングになったみたいでね。
この世界に入って25年が過ぎて、自分にとっては何か集大成という意味があるかもしれませんね。
ところで、これが『3月のライオン』を作るにあたって、僕が最初に書いたトリートメントなんですよ(ファイルを見せる)。
- 池ノ辺
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ここには何が書いてあるんですか?
- 谷島
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「この物語は極めることである。」要するに職業、プロに関しての話だと。
たったひとりで将棋を極めていきながら、閉ざした心を溶かしていく少年の物語であると。
それから「将来」と書いてあるんです。
少年が自らの将来に向かって再生していく物語であると。
「その少年はどのように周囲の大人たちと関わり合いをもって、助けられて成長していくのか」。
あと、ちょっとクサいことも書いてある(笑)。
「主人公の将来は、自分たちの子の将来であり、人間の未来を指す」。
- 池ノ辺
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いやあ、本当にそうじゃないですか。
- 谷島
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もうここで「自分たちの子」って書いちゃってるんだよね(笑)。
だから、究極の個人的な感情でいうと、この映画は、可能性という言葉が満ち溢れている子どもたちへの応援歌であると。
それを描くことは、人間の未来を指すと僕は考えていた。
じゃあその人間の未来とは何か?というと、新しいことなんて全くないんです。
人間として生まれてしまったことにより、永遠にへばり付いて離れない“苦しみと幸福”の話を作りたいと当時思ってた。
- 池ノ辺
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苦しみと幸福……。
- 谷島
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だって、人間に生まれると苦しいでしょ?
- 池ノ辺
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いろんなことがありますよね。
- 谷島
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苦しいんです。
でも幸せがそこに現れるんです。
原作にもありますが、嵐の先には、所詮、嵐しかない。
けれども、やっぱりそこで得るものはある。
そういう苦しみと幸せの物語を作りたいなあと思った。
原作から最も感動を受けたのはそこです。