自分とは真逆の空気を読めない主人公
―― 『アイ・アム まきもと』という題名は、ショーン・ペンが知的障害の父親役を好演した『アイ・アム・サム』のオマージュなんですかね。牧本のキャラも独特な部分があります。
詳細は伺ってないですが、撮影しているときは『スティル・ライフ』という題名でした。ロケ先では『おくりびと2』じゃないか、と言われていました(笑)。
―― 役で心がけたことは?
しゃべり方など、特徴的じゃないように、あまり作り込まないようにしました。台本上でもう出来上がっている感じがしたのも大きかったです。
―― 周囲の空気を読めない牧本にはどう感じましたか?
僕はすごく空気を読んでしまう方なので、憧れます。牧本は亡くなった方を弔っていく。それって、すごくいいことだな。
今は、人のことを気にする一方で、関係性がちょっと希薄になってしまい、いわゆるメールだけの関係になったりしますよね。でも、牧本は電話でも済むようなことでも、ちゃんと面と向かって言うんです。今の時代には珍しい人なんでしょうね。今は、特にリモートになっちゃったから余計にすごいと感じます。そういうところが魅力的に見えたらうれしいなと思うんです。
―― 牧本みたいな少し変わった人がいたら、どうしますか?
なんとなく、くっついていくと思いますね。どういう方なんだろうと興味があるので。どういう家に住んでいるんだろうって、その方の人となりが気になるんです。
―― 牧本は、孤独死した蕪木(宇崎竜童)を弔うために、かつての友人、知人を訪ね歩きます。蕪木という人物像はどう思いますか?
昔の男というか、自由に自分のやりたいように生きている姿はかっこいいですし、少し憧れがあります。しかも、その役が宇崎さんというのがいい。勝手なところはあるけど、娘のことは思っていて、大事に写真も撮ってある。
この台本は、セリフにない部分が結構細かく書かれていて、そこもまた面白かったんです。今は、お葬式をやらない方も増えているらしいですが、やってもらいたくなりました。
―― ご自身はどんな死生観を持っていますか?
年を重ねるようになったこともありますが、最近出演している作品がそういうものが多いので、少し考えるようになりました。悔いのないようにしないといけないとは思っています。
―― 役の難しさは?
難しいところはなかったなと思います。牧本は自分に合う仕事を続けて、すごく充実してやっているわけですね。牧本に欠落した部分はあると思いますが、誰でも欠けている部分はあるし、だからこそ面白いと思うんです。
―― 阿部さんの欠けている部分ってありますか?
空気を読む割には集中力が足りないことですかね(笑)。一瞬で冷めてしまうときがあって、自分でもよくないぞと思うんですが、気が散ることが多いんです。
芝居していても、音がする方向に向いてしまったり‥‥役者としてはダメですよね。本番ではいろんなことが気になるんです。カメラワークとか読みたがる人間なので。長回しをやっているときが面白いです。