Apr 10, 2017 interview

もうすぐ100作。『ひよっこ』は高度成長期の話だが、戦中・戦後・現代、朝ドラで描く時代はどう決めるのか?NHKドラマ部部長に聞いた【後編】

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東京制作と大阪制作はライバル視していない

 

──『ひよっこ』でいよいよ96作ですよね。『半分、青い。』が98作で、あと2作で100作です。そこでは盛大「100作記念」みたいなものは計画していますか?

もちろん100作めに関しても計画はしています。でもそれは100作記念ということではなく、一作一作、全力を注ぎながら100作に近づいているだけで。一本一本ナイフを刺すのでいっぱいいっぱいです(笑)。だって、100作に到達する前に黒ひげが飛んでいるかもしれないから(笑)。「100作だー!」と僕らが盛大にぶち上げた瞬間に朝ドラはとっくに低迷番組になっていて、「なんかあいつら騒いでるけどちゃんちゃらおかしいよね」みたいになっている可能性もありますから。もちろん99作まで盛り上がっていれば、ハッと気がついたかのように「次100ですよ」と急に言い出しますよ(笑)。

──今は一番戦い時、ふんばり時なのかもしれませんね。

本当に一作一作が当たってほしいですね。

──遠藤さんが、次の次の朝ドラを北川悦吏子さんでやろうと決断された理由はありますか。

北川さんはもともとセリフ運びがうまいかたなので、さっきの条件で言うと朝ドラに向いているんじゃないかなという気がしていました。

──時期が近づいてきたら、北川さんの『半分、青い。』の話も伺いたいですが、そろそろ時間なので、大阪との関係性について伺えたらと思いますが。ライバルですか?

いいえ(笑)。全然ライバルではないです。というか同じ仲間ですから。僕もBK(大阪)で作っていましたが、「AK(東京)がBKを下に見てるんじゃないか」とか「BKはAKをライバル視してる」とか周りからそういうこと言われても意味がわかりませんでした。以前、とある取材先から「朝ドラというのは『朝ドラ室』のようなチームがあるんですよね」と聞かれたことがありましたが、全然そんなことはないんです。

最初に申し上げたように、ドラマ部長がプロデューサーを指名して企画がはじまるので、その作品に入ったスタッフがそこで全力投球して、終わったらチームは解散します。それに僕らはしょっちゅう転勤していて、例えば、BKの『べっぴんさん』チームとは同じ部で働いたことがある仲間です。そんなふうに半年後には東京と大阪とスタッフが入れ替わっているかもしれないので、大阪と東京を分け隔てて考えることはないんですね。もちろん直前の朝ドラは常にライバルではあるわけですよ。次の作品を作るメンバーにとっては。直前がすごくヒットしてればもちろんそれよりはヒットさせたいと思いますし、直前がヒットしてなければ「うちで取り返そう」と思います。だから「直前の番組はライバル」ですし、もっと言えば、過去の数々の朝ドラがライバルであって、大阪と東京という分け方はないと思います。違いがあるとすれば、舞台になる土地で区切ってはいます。なんとなく、関が原より手前はAK担当で、それより西はBKが担当というくらいですが。ただ、西だけれど、沖縄は一度東京でやりましたし、『花子とアン』では福岡に行きました。BK制作の『マッサン』は北海道に行っていますから、明快に「ここから先は入るな」みたいなことではないですね。

──行き易さという合理性みたいなことですか。

それもありますが、東京と大阪で分けて作ることで、舞台である地域が偏らないように、という意識は少々あります。東京でだけ作っていると東京から行きやすいところでどうしても撮りたくなる。でも、そうしているとどんどん偏っていくので、大阪と東京でなんとなく分けて作っていることで、「もう少し広く目配りしましょうよ」というような気持ちはあります。

──そこはさすがNHK。全国区ですね。

それはありますね。あんまりどこかに集中しないように、とは思っています。やはりいろんな地域の方から「うちを舞台にしてくれ」という話はありますから。

──大河ドラマも「ぜひうちで」という話がいつも来ていると聞いたことがあります。

本当にありがたいことです。これは掛け値なく本当です。人気のないドラマにそういうお声はかからないんですよ。それこそ朝ドラがちょっと低迷した時期なんて「うちを舞台に」という声はたちまち小さくなりました。むしろいろんなところから「うちでうちで」って言われている間は「まだ大丈夫そうだ」という感じがするので本当にありがたいです(笑)。

──今はいろんなところから朝ドラも声がかかっている状況でしょうね。

おかげさまで。ありがたいことです。

 

取材・文/木俣冬

 

プロフィール

 

遠藤理史 Rishi Endo

1965年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、87年NHK入局。現在、制作局第2制作センター・ドラマ番組部部長。携わった朝ドラは『君の名は』、『あぐり』、『ちゅらさん』、『風のハルカ』、『ちりとてちん』。その他、演出として大河ドラマ「元禄繚乱」金曜時代劇「ゆうれい貸します」ドラマ愛の詩「六番目の小夜子」などを担当。プロデューサーとして上記の「ちりとてちん」の他『ふたつのスピカ』、『お買い物』、『風に舞い上がるビニールシート』、『お葬式で会いましょう』や、『朝ドラ殺人事件』『大河ドラマ大作戦』などのパロディーふうな作品も手がけている。

 

文・木俣冬

 

文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
現在、初めての新書を書き下ろし中。

otoCotoでの執筆記事の一覧はこちら:https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/