Apr 10, 2017 interview

もうすぐ100作。『ひよっこ』は高度成長期の話だが、戦中・戦後・現代、朝ドラで描く時代はどう決めるのか?NHKドラマ部部長に聞いた【後編】

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視聴者が戦争体験者から戦争を知らない世代に

 

──8時15分だったのが8時になりました。

15分とはいえ、NHKとしては時刻表の大改革でした。朝ドラの時間は、初期に一回動いたくらいで、始まってからほとんど動いたことがなくて。8時15分でずっと定着していたものを8時からにすることになったときは、現場が心配しましたが、「その代わり、やるからにはインパクトのある企画を持ってこなくちゃいかん」ということで『ゲゲゲの女房』をやることになったんですね。

久しぶりに戦争がらみの話、戦争直後の話をやることと、主人公が職業を持たず、明快なエポックがないことという、それまでの朝ドラとはある種違う流れを一回打ってみようということでやってみたらそれがとてもうまくいきました。そのときの反響が「戦争を思い出した」じゃなくて、どっちかというと「昔の日本ってこんなに苦労していたんですね」という反応でした。つまり、僕らが10年ぐらい他を向いている間に、朝ドラのメインの視聴者層が完全に戦争を体験してない世代になっていたんですよ。そこで「今なら戦争というものを、全くのネガティブな要素としてではなく描けるんじゃないか」と思いました。もちろんネガティブでデリケートな話ではありますが、「かつて自分たちの先輩たちがこんな大変な思いをしてがんばってきて今があるんだ、ということをもう一回思い出す」というようなニュアンスになってきたんですね。

──視聴者とその反応が変わってきたんですね。

戦争で、一回、自分が持っていたものを全て失って、もう一回立ち上がるという流れは、多くの人たちが実際にそれを体験していることもあることも手伝って、ある種の成功譚として成立しやすいんですね。現代人が普通に生まれて何かに大成功したといってもそんなにどんでん返しした印象がしないけれど、一回本当に焼け野原に立って、「家もお金もありません」というところから「大会社の社長になりました」というところまでやれば落差も大きくドラマティックです。そういう意味で、今は、リアルタイムの出来事を描いて共感を得るだけではなくて、もっと、頑張ってきた昔の人たちの姿から勇気をもらう、みたいなドラマが再びできるようになってきたという感じじゃないかなと思っています。

──戦争を知らない若者たちに歴史を伝えていく役割もあるわけですね。

大げさに言うとそういう感じですが、僕らが「戦争体験を伝えなきゃ」みたいなことで考えているわけではなくて、ドラマというのは基本エンターテイメント番組なので、エンターテインメントとして、再び戦争を見てもらえる時代になったということでしょうか。東日本大震災のシーンは、今でもちょっと嫌がられますよね。でも、恐らくこれから20年くらい時間が経てば、震災のシーンを再び描ける時代がやってくるのではないかなという気がします。今は例えば震災の番組をやっても、観ている人たちの心の傷が深さに配慮して、揺れている瞬間や津波で人が流れる瞬間は描かないようにします。でもやがて、逆にそこを描かないと観ている人たちにわからないという時代がまたやってくると思うんですよ。

──確かに今は、その瞬間を描かなくても、誰もの記憶に鮮烈に残っていて脳内補完しますね。

今はたぶん「今は3月11日です」というふうに表記すれば、「あ、もうすぐ揺れる」というところでいったん画面が黒くなって、その闇が明けたら町中瓦礫の山になっていても、誰もが明らかに意味はわかる。でも、30年後には、リアルに体験してない人たちが40歳くらいになって、人口の大半はその人たちになっている。そのときに同じ手法で描いたら「え、今なにが起きてるの。その黒い間どうしてるの」という話になるでしょう。そうなったときは詳細を描かざるを得ない。で、それを描くようになり、そうすると今度はそれをリアルに体験した人たちがお年寄りになっていて、「いや、ちょっとあれを見るとイヤな気持ちになるな」と言い出して……ということが再び起きるのではないかという気がしますね。

──今回、昭和の高度成長期に関しては、視聴者の方々の反応をどう期待しているのでしょうか。

今回、昭和の鼓動成長期を選んだのは、オリンピックを背景にしていることが大きいです。「戦争を描かない」とか「戦争から離れた」ということよりも、「東京オリンピックがもうすぐあるぞ」という時期で、みんな東京に興味出てきたのではないかなと思いました。例えば『ブラタモリ』をたくさんの方々に観ていただいている背景も、この街がどういうふうにできて、どうなっていたか、それこそ全く知らない世代が多くなってきたからではないかと思うんです。東京オリンピックの前に、かつての東京オリンピックの時代の東京がどうだったか覚えている人たちは60歳や70歳になっています。僕はオリンピック直後生まれで、つまり僕より5歳上ぐらい下の人たちは、オリンピックの頃の東京のことはよく知らない。そういう人たちが増えてきて、「そうなんだ、東京オリンピックの頃、東京ってこんなに変わったんだ」と熱心に見てくださる時代がやってきた。だからこそ、『ひよっこ』では、「懐かしい」という感覚ではなく、客観的に高度成長期とはどういう時代だったか興味をもっていただきたいと思って作っています。

──確かに、オリンピックが近づいてきて、昔オリンピックをやった時代も気になりますよね。

岡田さんはもともと、大成功した主人公を描くドラマではないもので勝負してきた人なので、いわゆるスケールの大きいドラマティックな背景がなくても大丈夫なんですよ。