『ピーターパンの冒険』で新境地・少年役に開眼!!
- 古川:
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日髙さんと言えば、南ちゃんに代表されるかわいらしいヒロインだけでなく、『ピーターパンの冒険』(1989年)などの少年役でも評価が高いよね。これはどういう経緯で開眼したの?
- 日髙:
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冒頭でもお話ししましたけど、「南ちゃんが終わった後」のことを考え、ずっとこの仕事を続けていくためには、ヒロイン以外の役もできるようにならないといけないなって思ったんです。30代ももうすぐでしたし、若くて上手な後輩がどんどん出てきていましたから。そんなある日、『らんま1/2』の現場で、チョイ役の少年に、誰かが声を入れなくちゃいけなくなったんです。
- 古川:
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それを日髙さんがやることに?
- 日髙:
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そういう時って、だいたいその場にいる女性声優の誰かが担当することになるんですが、たまたまその時は私しかいなかったんです。でも、そうしたら斯波さんが「やっぱり来週録るからいいや」って。きっと、斯波さんは私に少年役は無理だと思ったんでしょうね。もちろん、私もそんな役はやったことがありませんから、「やらせてください!」と立候補することもできず……。それでちょっとモヤモヤしていたところにやってきたのが『ピーターパンの冒険』のオーディションだったんですよ。
- 平野:
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どなたかが日髙さんにピーターパン役ができるんじゃないかって思われたのね。
- 日髙:
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いえ、実はそのときは、ヒロインのウェンディ役のオーディションに呼ばれていたんです。でも、ピーターパンってちょっと中性的なところもあるじゃないですか。それで、自分からお願いしまして、ピーターパンのオーディションも受けさせてもらうことになりました。
- 平野:
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どうしてそこまでして少年役に挑戦したかったの?
- 日髙:
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当時、自分の中で、これまでとはガラッと違った役をやりたいという気持ちが大きくなっていたんです。それで少女役とは180度違うことをやってみたいなって。子役時代にちょっとだけ少年役をやった経験も、自分の背中を押してくれました。
- 古川:
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周りの反応はどうだった?
- 日髙:
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音響監督(録音監督)の山田悦司さんには「えーーっ!?(笑)」って驚かれましたね。あんまり本気で受け取ってもらえなかったようで、その場の雰囲気的にも、本人がやりたいって言ってるし、せっかくだから録ってみようか、くらいの感じでした。
- 平野:
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でも、ノン子としては自信はあったのよね?
- 日髙:
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ここで聞いてもらえないと後で絶対後悔するという確信はありましたね。実はその後も、どこまで低い声を出せるのか、それで掛け合いの演技ができるのか、その声で1年間続けられるのかとか、何度も追加のテストがあって……最終的な決定が出るまでは本当に不安でした。「世界名作劇場」は憧れの作品だったので、なおさらですね。余計なことをしないでウェンディ役を狙えば良かったって、何度も思いましたから。
- 平野:
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その後、ピーターパン役に決まって、収録に臨んで……どうだった?
- 日髙:
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それが、第1話の収録で力み過ぎちゃって、早々に声が枯れてしまったんですよ。絵が入っていなかったこともあって、やり直しもいつもより多くて……。当初からそれを心配されていたこともあって、お弁当を食べながら涙ぐんじゃいました。幸い、本編はティンカー・ベル役の島本須美さんたちに励まされながら何とか収録できたんですが、その後に録った新番組予告は声がガラガラでひどかったですね(苦笑)。
どれくらいひどかったかと言うと、それと並行してやっていた『らんま1/2』の現場で、たまたま予告編を見た乱馬役の山口勝平くんが「今度の世界名作劇場の主役は声が汚いですね!」って言っちゃうくらい(笑)。
- 古川:
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わお!(笑)
- 平野:
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あらあら……(笑)。
- 日髙:
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私がやってるって教えたら真っ青になって謝られましたけど、実際、それくらいひっどい声だったんですよ。