国民的ヒロイン「浅倉南」を演じるということ
- 平野:
-
『タッチ』の南ちゃん役は、どうしてノン子がやることになったの?
- 日髙:
-
オーディションですね。『タッチ』の前に出演していた、『よろしくメカドック』(1984年)の現場に、音響監督の藤山房延さんがいらしていて、帰り際にスタジオ出口の階段のところで呼び止められたんです。「今度、『タッチ』という作品のオーディションがあるから、それを受けてください」って。原作は読んでいたので、すぐに“あの役”だ、ってピンと来ました。
- 平野:
-
オーディションはどんな形式だったのかしら?
- 日髙:
-
ジョギングから帰ってきたカッちゃん(上杉和也)からリンゴを受け取って「また八百新のおじさんから?」と言うシーンなどを一人で演じる形式でした。頭の中で受け取ったリンゴをイメージしたり、自分なりに考えて演じたつもりだったんですが、「もっと明るく」「もっと明るく」とやり直しを指示されて、あまりうまくできたとは思えませんでしたね。南の声は地声なんですけど、憂いを秘めたシーンなどで、ちょっとウェットになりすぎちゃう傾向があったみたいです。
- 古川:
-
でも、最終的には日髙さんが選ばれたんだよね?
- 日髙:
-
杉井ギサブロー監督が声質を気に入ってくださったそうです。あと、最終審査の時の番号が「8」で、その末広がりに賭けてみようという話もあったのだとか(笑)。
- 平野:
-
ちなみに、南ちゃん役はほかにどんな人が受けられていたの?
- 日髙:
-
気になりますよね! でも、私がオーディションを受けに行った時は、会場に男性しかいなかったんですよ。もう私は緊張しちゃってずっと下を見ていたんですが、銀河万丈さん(原田役に抜擢)がいらっしゃったのだけは覚えています。あと、その場にいた皆さんが「双子が出てくるんだよな。どっちが先に死ぬんだっけ?」と話していたのがすごく印象に残っていて。
- 古川:
-
そうか、死んじゃったらそこで出番終わりだもんね。
- 日髙:
-
プロの声優はそういうことまで考えないといけないんだって感心しました(笑)。
- 平野:
-
主演の三ツ矢雄二さんと顔合わせしたのはいつ?
- 日髙:
-
制作発表会の日に初めてお会いしました。その会場には作品の予告編が流れていて、「うわ、優しそうで素敵な声だな!」って感心していたら、そこに三ツ矢さんがやってきて、ドンッって私の横に座ったんです。それで、ドキドキしながら「南役の日髙です。よろしくお願いいたします!」って挨拶したら、「……あ、新人ね。よろしく」って、そっけなくて。
- 古川:
-
感じ悪いね(笑)。
- 日髙:
-
でも、後で聞いたところによると、好調な日曜19時の枠で人気作品をアニメ化するということから、三ツ矢さんもものすごくプレッシャーを感じていらっしゃったそうなんですよ。その上、相手役にお荷物のど新人を押しつけられて……。あのときの「よろしく」は、コイツがお荷物かって思った時の「よろしく」だったんだと思います(笑)。