Nov 01, 2017

インタビュー

大河ドラマ原作『西郷どん!』なぜ林真理子は人間・西郷隆盛の執筆に挑んだのか?気鋭のジャーナリスト速水健朗が迫る

西郷隆盛の生涯を描いた『西郷どん!』の大河ドラマ化が決定し、2018年1月から放送を控えている作家・林真理子さん。三度の結婚、二度にわたる島流しなど、波乱万丈な生涯を送りながらも明治維新を成し遂げた西郷隆盛の人間的な魅力と高い理想から激動の幕末を描いた本作。雑誌の連載中から「今まで誰も描かなかった西郷隆盛像」と話題の作品について、ジャーナリストの速水健朗さんがじっくりと話を聞きました。

 

──西郷隆盛って、おなじみのようでいて謎が多い存在ですよね。そもそもどうして林さんが興味を持たれたのか気になります。

4年前に『正妻 慶喜と美賀子』という作品で徳川慶喜を書いたのですが、これが非常に楽しかったんです。それで気持ちが高ぶっていたら、(歴史学者の)磯田道史先生が「西郷隆盛について書いてみれば?」と仰って下さった。資料も残っていましたし、幕末をまた書いてみたいという気持ちになっていたので、一か八かで連載を始めました。それまでは、自分自身、西郷隆盛を書くことになるとは思ってもみませんでした。あまりにも知られた偉人なので、無理だと思いました。征韓論で明治政府を下野したとか、江戸城無血開城を実現した立派な人だという程度の知識の上、複雑そうで、『正妻~』の時も登場させなかったくらいですから。

──当初はあまり興味がなかった?

小説として描くには手強そうだなと思ったんです。“偉大な巨人”として書くと(人物が)遠ざかってしまいますし、親しみやすく書くと小さい人間にまとまってしまいそうで、そのバランスが本当に難しかったですね。

──西郷の前半生のポイントは、島流しです。その間も幕末の情勢は大きく変化します。

そうなんです。大久保は「俺たちの為に島流しに遭ったんじゃないか」、「西郷さんがいればこんなことにならなかったかもしれない」と思うんですけど、いったん姿を消したことで評価が高まったというか、西郷に対する“不在ゆえの期待感”もあったんじゃないかなと思います。島流しになったことで、作者としては、その間の幕末の激動の流れを追わなくて済みました(笑)。読者の方にとっても、わかりやすくなったんじゃないかと思います。

 

 

 

歴史のプロではないから
読者の目線でイチから勉強しました

 

──薩摩の財政や農業については緻密に掘り下げて描かれていますね。調べるのは大変だったのでは?

作家が「すごく大変だけど勉強しました」と言うのは恥ずかしいですけど、私みたいな怠け者がよくやったなという感じです。そもそも歴史の勉強が好きじゃなかったんですよ。出来たら避けたいけれど、書くためにはやらなければいけないと。薩摩が日本の一部というよりも、特殊な“独立国”の形相があったようで、興味を持ったんです。

──歴史は得意ではなかったんですね。

私は歴史オタクではないので、それこそ一から勉強なしなくてはいけないんです。でも、歴史のプロではない読者の皆さんと同じ目線に立てるぶん、わかりやすく書けるんじゃないかと思っています。例えば、その頃の武士のお給料ってどのくらいだったのか、どうしてそれくらいの年棒だけで家族7人が食べられたのか。武士が畑に行って農業をするって、勤務体制はどうだったのかとか、そういうことからひとつひとつ学んでいきました。そこから物語を作っていく訳ですけれど、幕末はご存じのとおり複雑怪奇ですよね。攘夷と言ってみたり、開国と言ってみたり、今日の味方は明日の敵みたいな、幕末のそういった複雑さが苦手な方ってすごく多いと思うのですが、私も同じ立場でしたので、そこから考えて物語を作りました。

──歴史小説の醍醐味は、史実を踏まえるだけでなく、想像力で補なっていく部分ですよね。

勉強して資料を集めて、そこからやっと何かを掴みかけて物語を構築していると、急にテロなんかをやってくれちゃったりもするし……。歴史小説を書いていて必ずぶち当たるのは、せっかく(物語が)いい方向に来ているのに、正反対の資料が出てくることなんです。編集者に「この史実は、なかったことにしましょう」と言って済ませたくなることもありますけど、もちろんそれは出来ません。

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