Mar 18, 2022 interview

映画の美味しいところをミックスした『ガンパウダー・ミルクシェイク』 オタクを自負するナヴォット・パプシャド監督に聞く日本映画の影響

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日本映画の影響を誇りに思う

―― 拝見したところ『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』を思い起こしました。日本映画も参考にしていますか?

『唐獅子牡丹』は観たかどうか定かではないけれど、梶芽衣子主演の『修羅雪姫』、『女囚さそり』シリーズとかは観ていたし意識しました。暗殺者が主人公という同じような作品が、自分が制作するより前にあった場合、それを理解しなければならないし、大切にしなければならない。僕はそう思っています。そういった意味では日本映画で言えば、『子連れ狼』も、それに当たりますね。子供を連れて物語が進行するので、参考にもしたしインスピレーションにもなっています。ムードを掴むためにも主演のカレン・ギランにも観てもらいました。

―― 確かに。カレン・ギラン演じるサムが8歳9カ月のエミリーとともに戦うところは『子連れ狼』ですね。日本映画の影響という意味では『キル・ビル』にも通じるものがあります。

もちろん『キル・ビル』にもインスピレーションを受けています。『キル・ビル』自体がアジアとか日本の映画に影響を受けた作品ですよね? だから連綿と続く映画エッセンスがひとつの輪になって、最初のルーツに立ち戻る感じもありました。こういったことは、その場で意識しているわけではなくて、後から「あそこからインスピレーションが来ているんだな」と分かるのが楽しいところでもあります。

―― 映画だけでなく、日本カルチャーの影響をとても感じました。

日本の影響を受けているということは、僕にとって、すごく誇らしいことなんです。アニメも好きなので、本作で日本語がプリントされたTシャツを衣装として登場させました。これ、僕が日本の作品に影響を受けていることを、観客に理解していただきたいからです。

―― 具体的に日本映画では、どんな作品に影響を受けましたか?

何時間でも話せるけど時間は大丈夫ですか?(笑)。もう、そのくらい影響を受けているんですよ。なかでも、僕にとっての映画の神で、最初に語るべき名監督といえば、黒澤明監督。僕に影響を与えた3大監督は、黒澤、レオーネ、ヒッチコックなんだけど、特に黒澤明の場合、ジャンルをミックスした作品作りに初めて出会わせてくれました。

―― ジャンルをミックスした作品とは?

僕が育ったイスラエルでは、ジャンル映画がなかった。「自分もジャンル映画をつくりたい。アメリカでもつくりたい」と常々思っていました。多くの映画監督のなかでも黒澤明監督の西洋のジャンルの取り入れ方と解釈の仕方に、すごく大きな影響を受けています。作品を挙げたらキリがないけど、『天国と地獄』や他の侍映画にも影響を受けています。

―― なるほど。推理小説作家のエド・マクベイン原作とする『天国と地獄』と本作品も、他ジャンルを取り入れて、誘拐事件の手違いから物語が展開するところが、一緒ですね。

この『ガンパウダー・ミルクシェイク』も、浪人モノと言えばいいのかな? 自分の家がない侍の物語という解釈もできる。そういう意味では『用心棒』の影響もあって‥‥。いやそれこそ、セルジオ・レオーネだったり、ジム・ジャームッシュだったり、リュック・ベッソンだったり、ジャン・ピエール・メルヴィルであったり、それはもう、いろんな監督からインスピレーションを受けています。だけど、僕にとってやっぱり最も影響を受けた監督は黒澤明ですね。

―― 黒澤明監督以外で好きな日本人監督はいますか?

三池崇史も大好きだし、黒沢清も好きですね。アニメも今敏監督の『パプリカ』なんて20回も観直したよ!