Nov 03, 2019 interview

俳優というよりダンサーという意識がある―ウィレム・デフォーが語る独自の演技論、芸術からの影響

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絵画の歴史でもっとも有名でありながら、人生には謎の部分も多い、フィンセント・ファン・ゴッホ。そんな唯一無二のアーティストの運命が大きく変わった時代にフォーカスし、知られざる素顔に迫ったのが、『永遠の門 ゴッホの見た未来』だ。渾身の演技でゴッホ役に挑んだウィレム・デフォーは、本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。実際にゴッホの名画が完成されていくシーンも、自ら筆を手に再現していくが、いったいどんな役作りがあったのか? そして、これまで強烈なインパクトの役も多かったデフォーが、俳優人生でもっとも影響を受けたものは? 来日した彼にインタビューした。

最初は脚本の“アドバイス役”だった

――ゴッホの正式な名前は、フィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホで、ミドルネームのウィレムがあなたのファーストネームと同じです。何か縁を感じさせますね。

僕の本名はウィリアムで、ウィレムはニックネームなんだ。でも、それは偶然(笑)。ゴッホとの縁で言えば“オランダ”かな。まだ僕が俳優を始めたばかりのころ、もっとも多く訪れた海外の都市がアムステルダムで、そこにはファン・ゴッホ美術館がある。ゴッホはオランダ人で、もしかしたら僕の遠い祖先がオランダという可能性もなきにしもあらず…ってところかな(笑)。

――もともとゴッホの絵には興味があったのですか?

もちろん好きだったが、この映画によってさらに深くゴッホを理解した。彼の手紙を読み、絵画のスタイルを知るうちに、ゴッホへの敬意が増していき、最後は彼と一緒に生きている感覚を味わったんだ。ゴッホの手法や色の使い方は当時とても斬新だったことを再認識したよ。

――では、ゴッホ役のオファーは即決したわけですね。きっかけを教えてください。

ジュリアン(・シュナーベル監督)とは、もともと友人だった。彼がゴッホについての脚本を書き始めたころ、僕に連絡をしてきて、その脚本やゴッホの手紙、伝記などを読んで、感想を聞かせてほしいと頼まれたんだ。「ゴッホを演じてほしい」とは一言も言われずにね(笑)。それで感想を送ったのさ。

――あくまでも“アドバイス役”だったのですね。

そうなんだよ。そしてしばらくしたある日、ジュリアンから電話がかかってきて、家に来てほしいと言われた。そこで僕は髪を切られたうえに、衣装やヒゲを着けられ、写真を撮られた。その時点で、まだゴッホ役の依頼はされておらず、僕が何となく“察した”だけ(笑)。結局、その後に正式に頼まれたのだけど、こうしたプロセスは僕にとって自然な流れだったね。

――そこから、一気にやる気が湧き上がったのですね。

どんな映画になるのか、あるいは、どんな役を演じるのかをまったく気にせず、ただ、ジュリアンの現場に参加してみたいという衝動が湧き上がったんだ。

――シュナーベル監督は画家でもあるので、絵画のテクニックも教わったと聞いています。

ジュリアンに画法の指導を受け、実際に僕がカンバスに筆を置いている。見せかけではないよ。まず、筆の持ち方や対象物の準備から始めて、絵画の基本を習っていった。この部分をうまくこなせば、ゴッホの核心をつかめる気がした。特殊な発明に挑むような感覚は過去に経験したことがなく、とてもワクワクしたよ。