- 古谷:
-
「ニュータイプ」について、かな。実はニュータイプについては、当初、全く何も言われていなかったんだけど、あるとき、アムロの額に稲妻が走るシーンを見つけてしまったんです。後ろからくる敵に気がついたりする時に稲妻が現れる。それで「これはなんですか?」って富野監督に聞いたら「あ、気がついちゃいましたか」って。そこで初めてアムロにニュータイプの素質があるということを教えてもらいました。
- 平野:
-
さすが古谷さん、って?
- 古谷:
-
じゃあ、そのことをどう表現しようと考えて……目をつぶってやってやろうと。後ろから来ている敵は見えないわけだから、それを疑似的に再現するのはその方法しかないって。フィルムを見ないで、直感だけで「そこか!」って。
- 平野:
-
でも、それだと口パクに全く合わなくなっちゃいません?
- 古谷:
-
それが、初めてやったときにピッタリ合った。もちろん、リハーサルはやっているので、だいたいの感覚はわかっているんですよ? でも、まさかピッタリ合うとは思っていなくて……2回目からは合わなくなっちゃったんですけどね(笑)。
- 古川:
-
僕が今でもよく覚えているのは、マチルダさんっていう、アムロの初恋のキャラクターが死んでしまった後の別れのシーン(第24話『突撃!トリプル・ドム』)で、徹ちゃんが監督を待たせるっていうことがあったんだよ。気持ちを作るから少し時間をくださいって。
- 古谷:
-
よく覚えてますねぇ(笑)。
- 古川:
-
しかもそのとき、富野監督はカナダに行く飛行機に乗らないといけなくて、すごく急いでいたんだよ。僕の長い声優生活でも、富野監督を待たせたのは後にも先にも古谷徹だけですよ。
- 古谷:
-
それは知らなかった! でも、後悔したくないでしょう? それに、その結果、良いものができるんなら許されると思う。その自信もあったしね。あの何度も繰り返す「マチルダさん」って叫びは、心の声なんですよ。
- 古川:
-
しかもそのシーンでは、収録が始まる前からもう役に入り込んでいてね。嗚咽を漏らしながら、マイクの前に立って叫ぶんだよ。あれは本当に勉強になった。僕はそのとき、スタジオの外に出てないと行けなかったんだけど、無理を言って中にいさせてもらったんだ。その甲斐はあったね。
- 平野:
-
まずは自分の中に役を憑依させて、その中から出てきた声じゃないとダメってことね。
- 古谷:
-
そうですね。キャラが泣くときは自分も鼻水を垂らさなきゃ。それが僕のやり方。
- 平野:
-
そうやって、収録した作品って、後で自分で見直したりする?
- 古谷:
-
もちろん。そして、だいたい自分の芝居で泣くから。観客の気持ちになって「古谷徹すげーーーッ!!」って。ナルシストなのかもしれない(笑)。