Nov 08, 2015

インタビュー

第3回:声優以外の道を志していたらと思うとゾッとするね

レジェンド声優:古川登志夫
インタビュアー:藤井青銅(放送作家/作家/脚本家)

 

 

藤井青銅
(以下 藤井)

これはちょっと聞いていいのか判断しかねるんですが、古川さんが声優になって辛かったこと、困ったことについて聞いてもいいですか?

 

古川登志夫
(以下 古川)

僕はそれ、ないんですよね。途中から天職だなんて思い始めたりもしていて。子役時代、テレビの時代劇に出た時、放送されたカツラを付けた自分を観て、「あ、これはダメだ」って思ったんですよ(笑)。

カツラの乗らない顔ってあるんですよね。ジャガイモがカツラを乗っけただけで、まったく侍に見えない。ほかにもいろいろやりましたが同世代の子役たち、例えば平野文さんは『飛び出せ!青春』(1972年)なんかに出ていたわけですが、とても勝てないな、と。

 

藤井

いやいや、そんなことないでしょう(笑)。

 

古川

あと、役者の仕事は1つの仕事で何日も拘束されてしまうのでぜんぜん食べていけないんです。雨が降ったら待機とかね。

ところが声の仕事は全天候形で雨の日でも雪の日でも仕事ができちゃう。しかもスタジオで数時間しか拘束されないから1日に何本も受けられたりして。声優を本格的にやるようになったら収入が一気に増えました(笑)。

それでこれならいけると思って劇団を作ったりしたんですが、それもお客さんのほとんどがアニメファンでしたからね。声優になっていなかったら成立しませんでしたよ。ですから嫌だったことというのは本当になくて。

むしろ、声優をやっていなかったら悲惨だったんじゃないかなぁと思うほどです。

 

 

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藤井

では逆に声優になって一番楽しかったことって何ですか?

 

古川

とにかくいろいろな役をやれること。これは本当に楽しいですね。魚とか宇宙人とか人間以外の役もできちゃいますから。

第一、僕のようにジャガイモみたいな顔をした男でもイケメンの声ができる。『ONE PIECE』でエースの声をやっていても誰も怒らない(笑)。ビジュアルの出る役者だとどうしても外見に役幅が制限されるじゃないですか。

でも声優なら典型的な二枚目の役もやらせてもらえるし、何よりこの歳になっても二十歳の役ができる。実際、今やってる仕事もほとんどが若者なんですよ。

逆に年寄りの役をやり残しているので、このまま続けるとやらないままで終わっちゃいそうです。

 

藤井

そういえば古川さんの老人役ってほとんど聞いたことがないですよね。

 

古川

悪役もオカマも変質者も、二枚目も三枚目もとにかく色んな役をやってきたんですが、なぜか老人役だけは少ないんです。

永井一郎さんや八奈見乗児さんらベテランの集う事務所にいたこともあるんでしょうが、いい歳になっても若い声をやらせてもらえている。

だから、むしろ最近は老人の役をやってみたいんですよ。……と、そんなことを言っていたら最近、『うしおととら』で、何百年生きているのか分からないおじいさんの声をやらせてもらえることになって(笑)。それは今、楽しんでやっています。

 

藤井

この歳になっても役幅を拡げていきたいというのは素晴らしいことだと思います。そんな古川さんから、今の若い声優さんに向けて何か言いたいことはありますか?

 

 

古川

僕は実は苦言的なことはほとんどなくて。むしろ今の若い人はよくやっているなと思っています。録音機材の進化と共に演技論も変わってきているんだなって思わされる現場もあったりして、若い子たちの演技を批判的に思うことはないですね。

むしろ、僕たちがそこから学ぶことがあるかもしれないと感じるほど。ただ、唯一言えることがあるとすれば、お芝居だから合わせることだけが巧みになってもだめなんだよ、と。

もし問われたらそういう話はしてあげたいですね。ちゃんとした演技論があって、演技プランに基づいて立てた演技じゃないとダメ。「何となくこんな感じ」ではいけないんです。

 

藤井

何となくの掛け合いでやらず、ちゃんと自分らしさを盛りこまねばだめだ、と。

 

古川

滝口順平さんとか山田康雄さんとか、僕たちの大先輩たちは皆さん自分だけの表現を持っているんですよ。あれって真似できるものじゃない。

だからモノマネの人にお願いせざるを得ないということになってしまう。あそこまでやれるというのは本当にすごい。

だって、滝口さんみたいなナレーターってほかにいないじゃないですか。まさにコロンブスの卵ですよ。

 

藤井

当時、反発はなかったんですかね?

 

古川

いらっしゃったかもしれませんね。でも面白がった人もいると思うんですよ。

 

藤井

『にっぽんのメロディー』などで有名な中西龍アナウンサーも個性的なナレーションで有名ですが、彼は渡された原稿の句読点を全て自分で打ちかえていたそうですね。それであの独特の調子を生み出していた。同僚に何でそんなことをするんだと聞かれた時には「ほかと同じじゃつまんないでしょ」と答えていたそうです。

 

古川

僕もナレーションの仕事を初めてもらった時、どうせやるんだったら自分らしいものをって思いましたね。それで暴走したところもあるんですけど(笑)。

 

藤井

でも声優としてはやっぱり一言聞いて分かってもらいたいですよね。

 

古川

ですから、通販番組の仕事とかで僕のマックスを超えるような叫び声とかを要求されると、自分がやる意味がないなと思ってしまいますね。僕の声の好感度のマックスがあるんですが、そこを越えると誰の声かわかんなくなっちゃう。

もちろん仕事ですからやるんですけど、内心は「これは僕じゃなくて、千葉ちゃん(千葉繁さん)の仕事だな」なんて思ってました(笑)。

どうして僕を使ってるんですか? って言いたくなったこともありますね。

 

藤井

それ、作家もありますよ(笑)。

 

構成:山下達也 / 撮影:田里弐裸衣)

 

レジェンド声優:平野文 インタビューはこちら

 

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古川登志夫(ふるかわとしお)

 

7月16日生まれ、栃木県出身。青二プロダクション所属。1970年代から活躍を続け、クールな二枚目から三枚目まで幅広い役を演じこなす。出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ「機動戦士ガンダム」(カイ・シデン役 1979~80年 テレビ朝日)、映画・TVシリーズ「うる星やつら」(諸星あたる役 1981~86年 フジテレビ)、映画・TV「ドラゴンボール」シリーズ(ピッコロ役 1986~97年 フジテレビ)、映画・OVA・TVシリーズ「機動警察パトレイバー」(篠原遊馬役 1989~90年 日本テレビ)、映画・TV「ONE PIECE」(ポートガス・D・エース役 1999年~)など多数ある。

 

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藤井青銅(ふじいせいどう)

 

23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」…など多数。

現在、otoCotoでコラム『新・この話、したかな?』を連載中。

 

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