2017年に第122回文學界新人賞、第157回芥川賞を受賞した沼田真佑の小説『影裏』を、『るろうに剣心』(12・14・20年)や『3月のライオン』(17年)などの大友啓史監督がメガホンを執り実写映画化。主人公の今野を綾野剛、今野と親しくしながらも突然姿を消す謎の多い男・日浅を松田龍平が演じている。「日浅はあまり感情を表に出す人ではない」という役柄についてや、共演の綾野剛とのエピソード、忘れられない家族の言葉などを語った。
思い描いてきたことを一旦捨てて臨んだ撮影
──最初に台本を読まれた時に、日浅というキャラクターに対してどのような印象を持ちましたか?
日浅が自分について語ることはほとんどなくて、彼と交流のあった人たちが「日浅はこういう人だった」とか「じつは日浅とこんなことがあった」と語っていくことで日浅というキャラクターが形作られている、そんなふうに台本を読んだ時に感じました。それによって“謎が多い人”という印象を受けましたし、そこにとらわれながら演じるというのはすごく難しいなと思いました。
──いろんな人が語る日浅という人物を、どのように作り上げて演じていかれたのでしょうか?
周りの人たちが語る場面が多いということは、情報が多いということでもあって。それを自分なりに「日浅はこうなんじゃないか」と考えて撮影現場に行くんですけど、いざ演じてみると、それがあまりうまくハマってないなと感じてしまったんです。やはりクランクイン前に台本を読んで思い描いていたのと実際に撮影するのとでは違うんですよね。ロケ撮影だったら風景によっても変わってきますし。それならば一旦、自分が考えてきたものをすべて捨てて、感じるまま、自分の気持ちの向くままに演じてみようと。その感覚を信じてやるしかなかったです。
──感じるまま、気持ちの向くままに演じてみていかがでしたか?
気持ち次第で見ている景色がガラッと変わるので、演じている間は日浅がどういう役で、『影裏』がどういう作品になるかといったことはあまり考えなかった、というより、考える余裕がなかったように思います。
日浅を象徴する台詞、関係性を表すシーン
──なかなか実態の掴めない日浅ですが、夜釣りのシーンで今野に「人を見る時は、影の一番濃いところを見るんだよ」と言った瞬間に、少しだけ日浅の根っこの部分がわかったような気がしました。
たしかに僕もあの台詞は、日浅を象徴しているように感じました。それにどういう人物なのかが少しだけ見えるシーンでもありますよね。でも、だからといってあの台詞にそこまで意味を持たせなくてもいいんじゃないかとも思ったんです。なぜならあの台詞の前後が大事であって、今野との関係性を表す台詞のひとつに過ぎないからです。
──あの台詞をとくに意識するというわけではなく、あくまでもシーンの中の台詞のひとつとして受け止めてらっしゃったのですね。
そうですね。あのシーンではないのですが、今野のとある行動によって二人の関係性やお互いの気持ちが見えてくる場面があるので、僕はそこが一番重要なのではないかと感じていて。日浅はあまり感情を表に出す人ではないので、シーンごとにどういう気持ちなのかを考えながら演じていました。だから先ほどおっしゃった台詞も、日浅の感情を探ったうえで、“シーンが締まる台詞”というぐらいの感覚で言っていたと思います。