Jul 04, 2019 interview

「最後に父にリボンを結んでもらったような気がする」―蜷川実花が語る『Diner ダイナー』舞台裏

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殺し屋専門の食堂を舞台にした平山夢明の奇想天外なミステリー小説『ダイナー』が映画化された。映像化不可能とされてきたこの企画に挑んだのは、人気写真家であり、映画監督としても『さくらん』(07年)や『ヘルタースケルター』(12年)をヒットさせた蜷川実花。初挑戦となるバイオレンス&アクションムービーだが、父・蜷川幸雄の影響を感じさせ、2児の母としてこれからの時代を生きる若い世代に向けた想いが溢れた作品となった。写真や映画と同じく、言葉もヴィヴィッドな蜷川語録を楽しんでほしい。

規制があるからアイデアが浮かぶ

――蜷川監督の前作『ヘルタースケルター』は主人公・りりこが芸能界の人気者からドン底へと転がり落ちていく物語でしたが、『Diner ダイナー』はカナコ(玉城ティナ)がドン底から這い上がっていく物語になっていますね。

確かにそうですね。まったく逆の物語になってる(笑)。自分では、意識していませんでした。いつも、そんな感じなんです。自分の直感みたいなものを信じてやっていると、不思議といろんなものが繋がっていくんです。

――原作は映画化が難しいとされてきた犯罪ミステリー小説。過去の『さくらん』や『ヘルタースケルター』とは異なるジャンルです。

前2作がヒロインものだったのに比べ、圧倒的に男らしい物語ですね。そこが難しいところでしたが、自分が得意なことばかりをやるんじゃなくて、やったことのないものにもそろそろ挑戦していい頃じゃないかと思ったんです。自分の手の内にないものに挑むことで、新しい発見や化学反応も起きるんじゃないかなと。

――ボンベロ(藤原竜也)がシェフを務める、店主も客も全員殺し屋の食堂を、蜷川監督は妖しくもポップなアート空間として描いています。血の代わりに赤い花びらが舞う演出には驚きました。

原作はすっごくハードなのに、プロデューサーからのお題は「R指定なしにしてほしい」というものだったんです。どうやって頓知を利かせようかと(笑)。そこが今回の映画化の一番のハードルでした。でも、そういった規制があるからこそ、いろんなアイデアが浮かぶし、普通に考えていたら辿り着けないようなところへ行けたんじゃないかと思っています。ビジュアルに関しては、自分のカラーを全面に打ち出しています。今秋に公開される『人間失格 太宰治と3人の女たち』(9月13日公開)は色味をグッと抑えたものにしているので、今回はアクセルを踏みっ放し、音楽も存分に使って、自分の得意技を全部入れてやろうというつもりでした。ビジュアル的にはすっごく快楽的なものになっていると思います。

――ウェイトレスとして働くことになったカナコが遭遇する殺し屋たちはみんな個性的で、アクションシーンでは背景に花が咲き乱れます。とても演劇的なケレン味を感じさせる世界です。

おそらく、父・蜷川幸雄が演出した舞台を子どもの頃からずっと観てきたことが直接的に結びついていると思います。(2016年に)父が亡くなったので、私がもらっちゃおうと。写真家としてデビューした頃は、父と比較されることに抵抗を感じていたんですが、映画を撮る場合はどうしても父の舞台で観てきたものが呼吸をするように自然と入ってきます。「もう、いいや」と思って、DNAのすべてを吐き出すつもりで完成させました。先ほども言いましたが、もちろん自分の得意技も使っています。キャストの中には初めてお会いする方もいましたが、ほとんどはスチールの撮影で一度関係性を結んでいた人たちだったので、お互いに気心が知れていて、かなり有利なスタートでした。自分がこれまで培ってきたものもプラスしています。足し算、掛け算で生み出した映画です。

――アクの強い殺し屋たちのキャストにはどのような演出プランを?

ボンベロ役の(藤原)竜也は人間としてもかっこいいし、演技もうまいし、いろんな角度を持っています。今回は男としてのかっこよさ、造形としての美しさをシンプルに映像にしたいなと。「竜也を一番かっこよく撮れるのは私なんだ」という想いで臨みました。全身傷だらけの殺し屋スキン役の窪田(正孝)くんは、「世界一かっこいい傷にしてください」とオーダーして、とにかく美しく見えるように何度も修正してもらいました。他のキャストのみなさんは、普段なかなか演じることのない殺し屋役を楽しんで演じてくれていたと思います。みなさん、すっきりした顔で撮影を終えていました。常に受けて立つ立場だった(藤原)竜也と(玉城)ティナの2人は大変だったはずです(笑)。