『シン・ウルトラマン』(2021年公開予定)の主演に抜擢されるなど、活躍が続く斎藤工。もうひとつの名前、齊藤工名義での監督作『blank13』(17年)が国内外で高評価されたことも記憶に新しいが、さらに映画的過激さを増した『MANRIKI』をプロデュースしたことでも注目されている。お笑い芸人・永野のアイデアから生まれた企画を、齊藤工がプロデュース(主演も兼任)、金子ノブアキが音楽監督、数々のCMやPVを手掛けてきた気鋭の映像クリエイター・清水康彦が初監督という顔合わせによる異色作だ。プロデューサー・齊藤工の映画への熱い想いを感じてほしい。
いままで誰も見たことのない世界
――齊藤工プロデュース作『MANRIKI』は、初監督作『blank13』と同様に起承転結的なフォーマットに縛られていない作品。過激なシーンもあり、これまでの映画に飽き足りないコアな映画ファンたちが楽しめる作品だなと感じました。
たしかに、入口はジャンル系の映画っぽくなっていると思います。でも、叫び声で人を殺してしまうイエジー・スコリモフスキ監督の『ザ・シャウト さまよえる幻響』(78年)のような作品が、かつてはカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞したりしています。新しい映画、いままで誰も見たことがないような世界を観たいと思っている人は大勢いるはずなんです。日本ではコアな映画マニア向けと思われるでしょうけど、永野さんという天才芸人の才能を映画としてアウトプットして、世界と闘ってみたかったんです。最終的には国内でも公開されればとは思いましたが、まず海外で勝負できるソフトとして完成させたのが『MANRIKI』なんです。
――永野さんと企画を考えていた当初から、世界マーケットを考えていたんでしょうか?
考えていました。初めての長編監督作『blank13』を完成させ、どんなマーケットへ送り出すべきかを考えていた時期でもあったんです。お笑いは芸術のひとつだと僕は考えていて、その中でも永野さんは天才と呼べるレベルです。永野さんの単独ライブを観て、とんでもない才能の持ち主だと感じたんです。世間的には「ラッセンが好き」のネタが有名ですが、ライブで見せているコントには彼の独特の世界観があって、トラウマやコンプレックスなども感じられるものなんです。僕が好きな映画も、ほぼそういうものです。強くて、かっこよくて、美しい人が出てくるよりも、誰にも見せない感情が描かれた作品のほうが、自分と繋がっているように感じられるんです。ポジティブさよりも、ネガティブなもののほうが人間は繋がりを感じやすいんじゃないかと思うんです。
断られたことが映画の強みに
――そもそもは永野さんとの何気ない会話から生まれた企画だそうですね。
永野さんがファッションショーに参加して、その時に覚えた違和感について話してくれたんですが、それを聞きながら「映画にしたらおもしろいだろうなぁ」と思ったんです。永野さんのほかにはないシュールな世界観を、いままで誰も見たことのないようなアングルを思いつく清水監督の才能と掛け合わせることで、映画的強度のある独創的なものが作れると確信したんです。映画会社に企画を持ち込んだところ、いくつかの会社には断られました。「おもしろい企画なんだけどね」で終わって、その先には進みませんでした。でも、断られたことは、この映画にとっては強みにもなるなと思ったんです。無難なものを作って国内で受けるのではなく、最初から海外を目指そうという覚悟ができたんです。この部分、TVで話してもいつもカットされてしまうので、よろしくお願いします(笑)。
――企画から映画の完成まで3年半を要したとのこと。プロデューサーとして、どのようなスタンスで接していたんでしょうか。
永野さんのアイデアを脚本にし、映画化するうえで、3年半は必要な尺だったと思います。すぐに撮影に入らなかったことで、まったく違うものに変わっていきました。まぁ、“小顔スプラッター映画”という謳い方を便宜的にしていますが、それは本当に入口、しかもドアノブでしかありません。B級ホラー映画で終わらせるつもりはありませんでした。そのドアの先は深い、誰も見たことのない精神世界が広がったものとなっています。3年半は、永野さん、清水監督らと共犯関係になるために必要な時間でした。脚本作りに関しては、永野さんと清水監督とのLINEでのやりとりを経て、物語として大きく広がり、さらに発酵していく過程を、僕は見守らせてもらったという感じです。脚本作りには基本ノータッチで、キャラクター作りの際に最終的なアイデアを出させてもらった程度でした。