Jun 15, 2021 interview

2022年公開予定映画『CHERRY AND VIRGIN』に見える映画プロデュースの革新性【佐藤P×川尻監督インタビュー】

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前作の短編アニメーション『ある日本の絵描き少年』が数多の映画祭で賞に輝き、注目を集める川尻将由監督の初長編となる商業映画デビュー作『CHERRY AND VIRGIN』が2022年の公開を予定している。過去に多くの名作を世に送り出した佐藤現プロデューサーは本作を広く知ってもらうため、クラウドファンディングという現代的なファイナンス戦略を実行した。彼は新しい才能を、可能な限り早い段階で映画ファンの前にお披露目することで、企業と映画ファンのハイブリッドな支援スキームを構築し、あたらしいマーケットやジャンルの開拓にドライブがかかることを期待している。

そんな革新的な狙いもある本プロジェクト、そしてそれを体現する役目も担った本作『CHERRY AND VIRGIN』について、おふたりにインタビューすることが叶った。また、川尻監督からは映画通が唸るマニアックな監督たちが列挙され、狙わずして映画マニアクイズとしても機能する内容にもなっている。

※『ある日本の絵描き少年』を本記事の最下部に掲載しております。ぜひ20分だけお時間を頂き、覗いて頂ければ幸いです。


【作品イントロダクション】

映画『CHERRY AND VIRGIN』(2022年春公開予定)

『CHERRY AND VIRGIN』支援プロジェクト 紹介動画

女性に免疫が無いエロ漫画家の遼(32歳)と、腐女子で現実の男性に良い印象を持たない亜美(28歳)。 互いにリアルな男女関係が苦手な二人が出会い、とまどいながらも他者と交わって生きることの意味を知っていく、可笑しくも愛おしい物語です。前作同様、作品ベースはアニメーションでありながらも、実写、漫画の要素を取り入れ、従来のアニメーションの枠を超えた、独創的な映像表現で描かれます。

支援プロジェクト詳細 → https://motion-gallery.net/projects/candv2022


【監督・プロデューサー プロフィール】

川尻将由監督(以下、川尻監督) ※TOP写真右
1987年生まれ、鹿児島県出身。大阪芸術大学在学中、原 恵一監督作などに影響を受け、アニメーション制作を志す。アニメスタジオに勤務後、映像制作会社を起業。2018年に発表した自主制作の短編アニメーション『ある日本の絵描き少年』は、監督・脚本・絵コンテを手掛け、第40回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリ、第74回毎日映画コンクール大藤信郎賞など数多の映画祭で受賞を果たした。

佐藤現プロデューサー(以下、佐藤P)※TOP写真左
第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、最優秀脚本賞など国内外で数多くの賞を受賞した安藤サクラ主演『百円の恋』(14)や、昨年の東京国際映画祭のオープニング作品としても話題を呼んだ森山未來主演『アンダードッグ』(20)などを手がける気鋭のプロデューサー。


【インタビュー全文】

川尻監督「本作には、統一された世界観はなく、登場人物がクリエイターそれぞれのデザインで登場します。」

—まずお二人の出会いからお聞かせください。

佐藤P:『第40回ぴあフィルムフェスティバル』の上映会で私は観客として川尻さんの『ある日本の絵描き少年』という作品を見ていました。準グランプリを獲得された作品なのですが、私は非常に感銘を受けまして。アニメでありながら実写の要素もあり、さらには漫画的な描き方も含まれている。新しい手法でありながら、テーマはすごく普遍的で、私自身が実写のプロデュース作品で取り組んでいるものとも通底しているなと思ったんです。ぜひ監督に会ってみたいと思って、フェスティバル事務局の方に紹介いただけるようお願いをしました。

—川尻さんはその時点では、ある程度本作の構想っていうのはあったんですか?

川尻:ペラ1枚ぐらいのものをお渡ししたかも知れないですね。『CHERRY AND VIRGIN』の原型を。

—そこからどのようなかたちで煮詰めていったのでしょう?

川尻監督:取材は結構しましたね。『CHERRY AND VIRGIN』の登場人物たちに近い感じの同人作家や漫画家たちに。自分が考えるものよりも、実際に起こったエピソードをなるべく使いたいと思っていたので、その人たちの体験とかを伺いながら、様々なエピソードを集めました。

—前作『ある日本の絵描き少年』もフィクションと伺っているものの、誰かのエピソードが透けて見えるような感じを受けますね。

川尻監督:フィクションではあるものの、『ある日本の絵描き少年』も障害者アートの施設の方や知的障害者専門の芸能事務所に所属している役者さんたちとそのお母さんに取材をしています。実際、劇中に出てくる<まさるのお母さん役>はダウン症の息子さんを持ったお母さんで、取材からの流れで出演をお願いしました。

—監督の柔軟な作品づくりが見えてきました。本作も瞬間的なひらめきで当初のプランを変更されたりしていますか?

川尻監督:しますね。ロトスコープを挟んでいるので、まずは実写で撮影するのですが、その時点でも思いつきで変更を加えたりします。特に、女性キャラクターの気持ちは分からないことも多いので、女優さんに「このとき、このキャラクターは何を思っているんですかね?」とか「このセリフを聞いて本当にこんなこと言いますか?」などすごく聞いてしまいます。そこで出た意見を取り入れて、演技のプランを変えたり、セリフを変えたりします。

『CHERRY&VIRGIN』
『CHERRY AND VIRGIN』製作初期段階のイメージボード

—「つくり方」から離れ、一方観客からの「見え方」として今までにない“新しさ”はどこにあるのでしょう。

川尻監督:アニメというのは1人の人間の画風にあわせて統一される世界観が主流なんですが、今回はそれがありません。登場人物がクリエイターそれぞれのデザイン・絵柄で登場します。それによって、より”他者”を際立てたいと思っています。例えば男性主人公はモノクロの漫画タッチで、対する女性のキャラクターはカラフルなイラストタッチになっています。

佐藤P:『ある日本の絵描き少年』も、精神年齢やそのときの心理状態によって、画風やキャラクターの絵が変化していくのが特徴でしたが、本作にもその特徴は生きていて。今作はエロ漫画家の男の子とイラストを描いている女の子が出会って、少しずつ交わって、今まであまり男女交際をしてこなかったような2人が、本気で人と向き合っていくという話なんです。その男女2人が、他者と交わる中でどう変化していくのか、全く別の絵柄同士が溶け合っていくのかどうか、また前作よりも進化した形で描かれていくんですよね。まだ僕も完成形を見ていませんが、楽しみな部分です。

—目新しさという点では、今回クラウドファンディングでサポートを募っています。その資金用途が「宣伝」というところでしたが、この意図をお聞かせください。

佐藤P:日本映画の場合、アニメ映画を見る層と実写映画を見る層が、割と分かれているところがあるのですが、川尻さんの作品は目線が実写映画的なんですよね。好きな映画が『マグノリア』だったり。業を抱えた人間が少しでも前に進もうとするような、大人の人間ドラマをつくろうとされている方だという印象を受けたんです。そういうものをアニメで描くことで、新しいジャンルやマーケットを育てたいと思いつつも、まだそこに莫大な予算は掛けられない現状がある。そんな中でも、制作費はある程度固めておいて川尻さんが安心して制作に臨めるようにしたかった。なので、この作品を日本のみならず海外含め”さらに広めていく”ために、クラウドファンディングで皆さんのお力を借りたいと思ったわけです。

—私個人としては、東映ビデオさんの企業としての後方支援に加え、より高い飛躍を期待している佐藤さんがクラウドファンディングを活用してさらなる支援をお願いするという、企業と映画ファンのハイブリッドなサポート体制が垣間見えて、これ自体が新しいクリエイターの応援の仕方にも感じました。

佐藤P:今回他社の出資は入れていないんです。企画書をキャッチーにして、ビジネスの毛色を強めて、というようなことは全くしていません。やはりこの『CHERRY AND VIRGIN』という一作品だけではなく、長く川尻将由という才能を育てていく中で、地道にステップアップしていかなくてはいけないと思っています。東映ビデオという会社として川尻さんの将来性に期待しつつも、ビジネス的な部分ではまだ乖離がある。なので、クラウドファンディングや無料公開中の『ある日本の絵描き少年』を見ていただくことをきっかけに、興味を持ってもらい、結果ファンが増えていくかたちになれば一番良いと思っています。