―― 板谷さんは2007年からは「NEWS ZERO」に出演し、2018年までの11年間、キャスターを務められました。そこで色々な社会を知る経験をされたと思いますが、気に止めなければいけないこと、気づかされたことはありますか。
いっぱいありますが、とにかく知らないことは知った方がいい。知らなければいけないことは、知らなきゃいけない。素通りしてはいけないことがたくさんあることを知りました。それに自分自身もそうですし、子ども達もそうですが、自ら社会と繋がっていないといけないと痛感します。こんな世の中だからこそ、「子ども達の未来、どうする?」と思いませんか?
―― 本当に思います。
この映画で伴明さんは「我慢しなくていい、『助けて』と言っていい、自分だけの責任だと思って請け負う必要はない」ということを伝えたかったんだと思います。
私たちもそう伝えていますが、私たち自身は「我慢しなさい、『助けて』とは言ってはいけない」というような「~しなさい」という教育を受けてきているので「助けて」と言えない、我慢してしまう人が多くいらっしゃると思います。それに「助けて」と言っている人に気づいたとしても“お節介と思われたくない、自己満足になってしまうんではないか”と思ってしまう人も居ると思うんです。
でも“そうではない”とこの映画を撮影してから1年経った今、より一層強く思っています。「こんな世の中で無理して頑張ることない」と言いたいです。
―― 同感です。自分が親になった時、子どもは親の背中を見て育つので、子どもの姿を見て自分の駄目な部分、直さないといけない部分にも気づかされました。
子どもには「無理しなくていい」と教えたくないですか?私は母から「無理しなさい」と教わって来たんです。だからこそ自分の子どもには「出来ないなら、出来ないと言いなさい」「みんながあっちを向いても、こっちを向いていい」と言いたいです。
それに困っている人が居たらお節介と思わないで手を差し伸べていい、そんな風に子どもに託すしかないと思っています(笑)。本当に生き辛い世の中ですよね、誰がこんな世の中にしてしまったのか‥‥。
―― そうなんですよね、私たちがしっかりと「意志を持っていいよ」と子どもに伝えなければいけない。そんなことを私も感じています。板谷さんが今後大事にしたいこと、やり残したことがあれば教えて下さい。
まだちょっと人様の役に立つようなことまでは妄想出来てないですが、ただ子育てが終わったら、社会の子ども達に関わることをやりたいと漠然とですが思っています。「NEWS ZERO」を通して子ども達を支援するNPOの知り合いも増えたので、ふんわりとですが‥‥、「子ども達だけでも何とかしたい」という想いはあります。子どものSOSに気づいたらこちらから動かないと駄目ですよね。
映画を愛し、人を愛する俳優・板谷由夏さん。本作【三知子】は、板谷さん以外の俳優さんが演じることを想像できないほど命を滾らせる演技で、命の価値や自己責任という言葉の重さについて問う高橋伴明監督ならではの切り口が痛快な傑作でした。事実を忠実に描こうとするのではなく、モチーフにして感情を揺さぶるメッセージ性の強い作品へと進化させる手法。本作を観たことで観客が何を受け取るか、それこそ映画の力を信じるスタッフが集結した映画作りな気がしました。
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
ヘアメイク / 結城春香、スタイリスト / 古田ひろひこ
北林三知子は昼間はアトリエで自作のアクセサリーを売りながら、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働いていたが、突然のコロナ禍により仕事と家を同時に失ってしまう。新しい仕事もなく、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。途方に暮れる三知子の目の前には、街灯が照らし暗闇の中そこだけ少し明るくポツリと佇むバス停があった‥‥。一方、三知子が働いていた焼き鳥屋の店長である寺島千晴は、コロナ禍で現実と従業員の板挟みになり、恋人でもあるマネージャー・大河原聡のパワハラ・セクハラにも頭を悩まされていた。誰にも弱みを見せられず、ホームレスに転落した三知子は、公園で古参のホームレス・バクダンと出会い‥‥これは、ある日誰にでも起こりうる、日本の社会の危惧すべき現状を描いた物語である。
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴
出演:板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明
配給:渋谷プロダクション
©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
2022年10月8日(土) 新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
公式サイト yoakemademovie.com