Dec 30, 2021 interview

坂東龍汰インタビュー 今までのキャリアを全部捨てて一回向き合わないといけないと思った『フタリノセカイ』

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―― 坂東さんは「2019年に公開していたのと2021年に公開するのでは印象が違う」と舞台挨拶で仰っていましたが、確かにそう思います。その頃、ハリウッドでは「トランスジェンダー役はトランスジェンダーの人が演じるべきか?」という議論が起こりました。もちろん私はトランスジェンダーの俳優が活躍する場が増えるべきだと思っています。坂東さんの演技を見て、「俳優」という演技で勝負する職業の仕事がしっかり出来ているか、もとても大事であると気付かされました。けれど演じる側は、その課題にぶち当たったのではないですか?

正直、ぶち当たりました。ぶち当たるというよりは“本当に僕でいいのかな”と一番最初は思いました。 

―― それを乗り越えようと思った理由はなんですか?

(脚)本が良かった、“やってみたい”と心の底から思ったんです。こんな脚本、今まで読んだこともなかったし、これを逃したら、【真也】という役を演じなかったら一生後悔すると思ったんです。この脚本の中の【真也】という役を演じてみたいと思う役者はめちゃくちゃいると思います。すごい機会をもらったと思いましたし、「やらない」という選択は見つかりませんでした。それと一緒に、トランスジェンダーについて知らなすぎるという問題も心の中で出て来ましたけど‥‥。知らないからこそ演じられないかも、という不安と共に表現出来なかったら失礼だとも思いました。だからこそ、当時自分が出来たことは“精一杯やりたい”という気持ちでした。

それに現場も本当に皆で作っている感じがすごく強くて、ひとりぼっちではないというのも支えになっていました。全キャスト、スタッフが一つのものを作るためにコミュニケーションを密にとって、全部署が納得するまでやり続ける。それはとても映画的だし、そういう気持ちがないと出来なかっただろうと思います。

  

―― 坂東さんはこれまでも色々な監督とお仕事をされていますが、いつも監督に疑問などがあれば質問をされる方ですか。

いや、全然しない方です。自分で考えます。役者友達に相談するとかも一切ないです。

―― 脚本を信じて自分で考えていく感じなのですね。でも今回は監督とよく話し合われたと仰っていましたね。

今回は監督とめちゃくちゃ話しました。この作品が今までで一番話したと思います。トランスジェンダーという役柄なので、いつものように自分で色々と調べて、理解して、一人で考えて完結して現場に持って行くものではないと思っていました。それは監督が描いている画や求めているお芝居には、自分の今までのキャリアを全部捨てて一回向き合わないといけないと思ったからです。またひとつ別のものとしてゼロからのスタートという感覚がありました。

―― この作品に入るにあたって監督から『ボーイズ・ドント・クライ』(公開:2000年)を観るように言われたと聞きました。

『ボーイズ・ドント・クライ』は観ました。でもそれ以外は観てないです(笑)この映画を観て“引っ張られる”と思ったんです。それに女性が演じているので所作とか真似し始めてしまったらと考えたら怖くなってしまって“これ、駄目だ。別物、別物”と思っていました。男性の俳優さんが「女性の身体を持って、男性として生きる」ような映画の存在を知っていれば、当時、観たかもしれないですね。意外と少ないんですよ。

―― 確かにそうですね。『リリーのすべて』(公開:2016年)もエディ・レッドメインが主人公を演じ、心と合うように女性の身体になっていく‥‥。確かに逆が多いかも。

「男性の方が女性の身体を持って、女性の心で演じる」という作品は結構あるんです。

―― トランスジェンダーの方を主役にした映画は不幸な展開になってしまうことが意外と多いですよね。でも映画って未来を描けるし、個人的には希望も観たいんです。この映画は探求して、可能性を見出していく、そこがとても良かったんです。

そうなんです。この映画は決して辛さを伝えたいわけではないんです。当事者の方はこれだけ辛い、これだけ悲惨な想いをしている、差別がこれだけある、そういうことを伝えたいトランスジェンダー、LGBTQを題材にした作品ではないんです。未来や希望、色々な可能性を見つけ出す旅の物語なんです。

監督がこの (脚)本を描いた理由もそういう明るい未来や希望を持っていいと考えて、ひとつのアンサーとしてこの二人の最終的な選択があったのだと思います。衝撃的なことは沢山起きます。「こんな選択する?」と思う人も居ると思いますが、そこは【ユイ】と【真也】二人の物語なのである意味フィクションです。