Dec 30, 2021 interview

坂東龍汰インタビュー 今までのキャリアを全部捨てて一回向き合わないといけないと思った『フタリノセカイ』

A A
SHARE

自身がトランスジェンダーである飯塚花笑監督がオリジナル脚本で紡ぎ上げた映画『フタリノセカイ』。出会った瞬間に恋に落ちた二人を演じるのは、『茜色に焼かれる』などに出演する片山友希と『弱虫ペダル』『スパイの妻』と出演作が続く坂東龍汰。普通に恋愛し、いつか結婚をし、子どもを持つと思い込んでいた【ユイ】が、本気で愛した【真也】はトランスジェンダー。愛しているからこそ傷付け合い、愛しているからこそ諦めずに乗り越えようとする二人の姿が愛おしい本作ですが、今回は、悩み惑いながらも幸せを掴もうと生きる【真也】を演じた坂東龍汰さんにお話を伺います。

―― トランスジェンダー役を演じるということもあり、準備することが多かったのではないでしょうか?

まずトランスジェンダーの方が集まる新宿のバーに監督と一緒に行きました。そこでお酒を飲みながらトランスジェンダーの方達と実際にお会いして、お話をしたりしたのですが、「声がトランスジェンダーぽい」とその時に言われた記憶があります(笑)元々が女性の肉体のトランスジェンダーの方だと声変わりをしたとしてもトランスジェンダー特有の声になるそうです。それで僕の声を聞いて皆さんが口を揃えて言って下さったんです。自分が“そう見えないのではないか”と凄く不安だったので、それを聞いて凄く嬉しかったし、不安が少し和らぎました。

最初は何も知らない状態だったので、元々肉体的に女性だったことを表現した方がいいのか、具体的に痩せた方がいいのか、と色々と考えていたんです。でも、そんなことは考えなくていい、考えないといけないのはそこではないということに監督と話していて気付くことが出来ました。だってトランスジェンダーである飯塚花笑監督はめちゃくちゃ髭が濃いし、声も低い、所作も男っぽい、それを見ていたら女性っぽさは考えなくていいと思いました。逆に普段より男らしくすることを心がけました。

―― 【真也】はまだ手術をしていない状況だからこそ、胸を隠したいけれども体に膨らみがある状況を坂東さんが少しでも感じようとして、撮影前からブラジャーを身に着けて電車に乗ったりしたとお話されていましたね。

実は生理用品も買いに行きました。

―― 自分でそうしようと思われたのですか。

飯塚監督が言って下さいました。

―― ブラジャーを身に着けることで新たな感情や発見はありましたか。

頭の中で考えてもたどり着けない部分が絶対にあるんです。僕が言葉で説明するだけならそれでいいのかもしれませんが、それを実際に自分の身体を使って演技をする、スクリーンに映すとなるとそこに責任を持たないといけない。でも撮影当時の自分は「ブラジャーをしていた」とは言えなかったです。撮影から2年半経った今だから人に言えていますが、当時の自分はコンプレックスと向き合うこともしていて、それを感情のフックにしてお芝居をするなど、今までやったことのない方法でのお芝居や役作りだったので、新鮮さがありながらもがむしゃらでした。

―― コンプレックスと向き合っていたとのことですが、それはどんなことですか?

よく聞かれるのですが言わない(笑)というか、言えないです。セクシャルコンプレックスみたいなものなので、あまり人には言いたくないですね。監督には赤裸々に話しましたけど、そこは二人の秘密です(笑)劇中にはセックスを拒むシーンもあります。それを自分に置き換えた時に“自分はどういうタイミングでコンプレックスを感じるか”とかセンシティブな部分での感情の抽出みたいなものを監督とよく話していました。もちろん、明るくお酒の席で笑いながら話してはいますが、僕はそんな話を人に打ち明けるのはその時が初めてでした。

でも【真也】はそれを遥かに超越するくらいの気持ちで【ユイ】に想いを伝える時の感情って、何千倍、何万倍、僕がコンプレックスを監督に話した時より、色々な方向にグチャグチャと爆発していたと思うんですよ。あのシーンが物語の始まりでもあるので、お芝居を越えた部分での表現を。監督は要求してきていたんです。