Dec 30, 2021 interview

坂東龍汰インタビュー 今までのキャリアを全部捨てて一回向き合わないといけないと思った『フタリノセカイ』

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―― 坂東さん自身は【ユイ】と【真也】の選択をどう思いますか。

難しいですよ‥‥、今どう思うか、撮影当時どう思ったか、脚本を読んだ時どう思ったか、もの凄く違う、全く別物なんです。撮影当時の僕からしたら、ちょっと理解しがたい。単純にわからない、何故?Why?ですよね(笑)撮影中も何故?でしたし。今現在はちょっとわかる気がするかな。

―― その変化は何故ですかね。

撮影当時は「愛」なんて全くわからなかったんだと思います。本当、正直に言ってマジにわからなかった。無償の愛って何?みたいな感じです。本気で人を好きになったことも当時はなかったと思うし、「ここまでして、こんな選択を選ぶ?何で?」と本当にわからなかったんです。

―― この映画は観る人によって結末の印象が性別や世代、考え方によって違うと思います。私は当時、子どもが欲しいと思った時に子宮のタイムリミットまで考えていた時期があり、あの選択をなんだか理解出来るんです。それは通過したからかもしれません。

性別世代によって、印象は全く違うと思います。僕は何故?ですよ、当時はわからない(苦笑)。もちろん昔(22歳の時)「子どもが欲しい」とぼんやりと思ったことはありましたけど、今の方がリアルですよね。直ぐに結婚したい、直ぐに子どもが欲しいというわけではありませんが、もっと現実的にそれを感じます。同世代から「子どもが産まれた」「子どもが欲しい」という話も聞きますし、それに不思議なことに段々と子どもが可愛く見えて来る(笑)。22歳の坂東龍汰も【真也】を演じていて幼稚園の子ども達と触れ合って「可愛いな」と思っていましたけど、最近リアルガチで1歳の子どもを可愛いと思う(笑)年齢が変わるとこんなにも変わるものなんだと思いましたね。

―― 状況によって映画の観方が変わるのは面白いですね。

「何でそこまでして子どもが欲しいのか?」ということが撮影当時の僕はわかっていなかった。【真也】を演じるうえで理解しようとしていたけど、理解出来なかった。小さく掴めたものを起爆剤として大きくしていく、その作業をすることで【真也】を演じることは出来ましたけど、「ただ子どもが好き」という感情から膨らましていった感じです。途中途中の決断、最後は衝撃的ですけど「全部を理解して演じていたか」と聞かれたら「全くそうではなかった」と今、言われて思いました。

―― 役者として大切にしていることは何ですか。

自分を嫌いにならないこと。自分を好きになること。自分の身体と声と顔を使って表現する仕事ですし、誰かの人生を生きる仕事をするうえで、まずは自分を嫌いにならないでいようと。自分のことは好きなんですよ、それにナルシシズムな部分も絶対にありますよ。でもお芝居をしていると、どこか難しい感情になる時があります。その時の気分で全く違うアンサーが出て来ると思います。

―― 5年後にはどんな答えが返ってくるのでしょうね。

だいぶ全く違う答えだと思います(笑)

―― 最後に「愛」について考える映画を1本教えて下さい。

色々な愛の形があると改めて再確認をして‥‥。最近観た映画で印象に残っているのは『少年の君』(公開:2021年)です。僕は最後の二人のガラス越しの芝居がすごく印象的で、マスクがずぶ濡れになるくらい号泣してしまいました。いい映画ですよね、あれぞ「愛」って感じです。あれ以上どう表現すればいいのかと思います、映画として最上級の上の上みたいな表現の仕方で。色々な愛の形の1つですが、その普遍的な愛だけを抜き取った時にあの題材であの脚本であれ以上の何が伝えられるのか、役者さんも素晴らしいですし、監督もたぶんめちゃくちゃストイックで凄く追い込んだんだろうなと思うような、底力を感じました。

―― 良いですよね。主人公を守り抜く不良少年シャオベイ(イー・ヤンチェンシー)を演じてみたいですか。

めちゃくちゃやってみたいです。あの映画を観てデレク・ツァン監督に「いつか出会いたい」と久々に思いました。映画を観終わった後、ちょっと色々な感情が出て来すぎて久々に足が動かなくて、立てなくなってしまいました。言葉に出来ないですよね、「素晴らしい」の一言です。

役によって全く違う顔になる不思議な俳優・坂東龍汰さん。本作でもほのかな色香を漂わせながら繊細な感情を持つキャラクターを見事なまでに体現し、気付けば【真也】に夢中になっていました。この映画のラストは、今まで描かれなかった方法論であり、ひとつの愛の形であり、希望に満ちた描かれ方だと思いました。映画はフィクションだからこそ可能性を模索できるのだから。

文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦


作品情報
映画『フタリノセカイ』

出会った時から互いに惹かれあった、ユイとトランスジェンダーの真也。恋愛し、いずれ結婚して家族をつくり、共に人生を歩んでいきたいという願い。だが、その願いを叶えるには、ひとつひとつクリアしなくてはならない現実があった。時にすれ違い、別々の道を歩むが再び出会ったフタリ。愛を確かめあい、ある決断をする。それはもしかすると常識を越えているのかもしれない。だが、安らぎに満ちたフタリには、確かに感じる未来があった‥‥。

監督:飯塚花笑

出演:片山友希、坂東龍汰、松永拓野、関幸治、クノ真季子

配給:アークエンタテインメント

©2021 フタリノセカイ製作委員会

2022年1月14日(金)新宿シネマカリテほか全国順次公開

公式サイト futarinosekai.com

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net