―― 大東さん自身が「こんな映画を作ってみたい」という興味のあるテーマがあれば教えて下さい。
めちゃくちゃいっぱいあります。今は面白いことがいっぱい増えていて、メディアの数も増えているし、色々な業種の人が色々な業種に手を出していることに対しても「ヨシ(可)」としてくれるようになっているしね(笑)
―― 肩書がたくさんあってもいい状況ですよね。
だから僕に関わらず、色々な職種の人が映画や映像を作ればいいと思っていて、その中で僕自身もアイディアがいっぱい生まれています。「今だからこそ、笑えるものを作りたい」というのもあるし、一つ社会問題的なものも描いてみたい。社会問題とかに手を出すとタブーみたいなところが一昔前はあった気がしていましたけど、今は一つの意見としてわりと軽く受け止めてくれるような気がします。
―― どんな社会問題を取り上げたいのですか。
児童相談所の話は絶対にやりたいです。いっぱいやりたいことはあるけど、以前より子供の痛ましいニュースが耳に残るようになっているということは、今自分のタイミングで触れておく話題なのだと思うんです。それを考えたいし、ずっと考えています。
―― 大東駿介さんだからこそ伝えられることもありますよね。
今は皆が当事者だと思っていて、自分のことで手一杯だけど些細なことで救われることはきっとあるから、それをもう少し当たり前に出来るようになるような発想を映画で届けたいと思っています。
後は大阪のしゃべくりをやりたいです(笑)大阪を離れて20年ぐらい経つから、今の大阪かはわからないけど『じゃりン子チエ』みたいな大阪だから成立する作品。『じゃりン子チエ』いいですよね。
自分のこだわりなんですが大阪の台本をもらった時、必ず「本通りには出来ません」と監督に相談するんです。関西弁って、なんか文章におさまるようになった時点で関西弁から離れてしまう。大阪人は喋りながら自分が思い付いた文章がどうおもろくなるかを考えているから「あの~」とか余計な言葉が入ってリズムを作るんです(笑)だから、それを「アイディアとして出させて下さい」と毎回、大阪の作品では監督に言います。
―― 元気になれる映画がいいですね。
そうなんです。暗いものでなく、大阪のべしゃりのオモロイやつやりたいです。
―― 下町の『じゃりン子チエ』からパワーをもらうみたいな。
そういうのいいですよね、生命力があって。先日、元NHK職員でお笑い芸人のたかまつななさんのインタビューを受けたんです。自分の幼少期の話。もともとたかまつさんの考えや記事は好きだったんですが、もう少しラフな記事が出ると思っていたんです。「こういう話(親に育児放棄されたなど大東駿介さんがご自身の過去を語った)こそ、もう少しポップにしないと届かない」し、僕自身すでに遠い過去の話なのでと、たかまつさんにもわりとポップに話したつもりだったんですが、出来上がってきた記事は想像していたのと少し違っていて。 “ん?なんか重い感じやな?”と思っていたら友達から「大東君、大丈夫?」みたいな連絡が来て「いやいや俺は全然、相変わらずこんな感じやで」と。
つまり、メッセージを直球で投げつけられると人は避けてしまう。だけど遠くの方でワイワイと何かやっていたら「何してるんだろう?」と覗きに来たくなる。そういう『じゃりン子チエ』みたいな映画がいいですね。
―― 私も記事を読ませて頂きましたが、多くの人にちゃんと届いていると思います。“よくぞ話してくれた”と言うのも失礼かもしれませんが、絶対に目をそらしてはいけない社会の問題ですから。
僕の過去の話ですが、今、僕はシーズン3待ちの状態なんです。実はその頃の記憶って あんまりなくて僕を引き取ってくれた叔母にたまにインタビューするんです。5年ぐらい前にインタビューしたのが今の記憶なんですけど、先日、その叔母が事故にあって、そのことで自分の死を悟ったらしく(元気に回復しました)僕に手紙を送って来たんです。その内容がシーズン2の僕の過去だったんですけど、読んだ時にまるで海外ドラマの衝撃展開で…!自分の人生とは思えないくらい面白くて、どうやらまだ出し惜しんでる過去があるようで今シーズン3待ちの状況なんです。
この物語も“これ、どこかでいつか出来るな”とか思ったりしています。シーズン1となるたかまつななさんのインタビュー記事はまだまだ序章で、物語の配置が説明されただけです。そこから「この人物がこんな動きをするんだ」とめちゃめちゃオモロイことになっています(笑)
―― いつか本か映画で読んでみたいですね。
シーズンがいつまで続くのか?今はわかりませんが(笑)、いつか、笑える作品ができたらおもろいなぁと思ったりしてます。
デビュー当時からずっと見守って来たような存在の大東駿介さん。何年経っても対応は変わらず、気さくで思いをハッキリ伝える笑顔が印象的な俳優ですが、ここ数年の作品では“大東駿介のもう一面”である「夕陽」のような温もりをスクリーンに焼き付けています。『草の響き』の研二のような人物になれたら・・・。そう思わずにはいられない気さくでセラピストのような友人が物語の中で微笑んでいました。
文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
心に失調をきたし、妻とふたりで故郷函館へ戻ってきた和雄。病院の精神科を訪れた彼は、医師に勧められるまま、治療のため街を走り始める。雨の日も、真夏の日も、ひたすら同じ道を走り、記録をつける。そのくりかえし のなかで、和雄の心はやがて平穏を見出していく。そんななか、彼は路上で出会った若者たちとふしぎな交流を持ち始めるが。
監督:斎藤久志
原作:佐藤泰志 「草の響き」( 「きみの鳥はうたえる」所収/ 河出文庫刊)
出演:東出昌大、奈緒、大東駿介、Kaya、林裕太、三根有葵、利重剛、クノ真季子 / 室井滋
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
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