新型コロナウィルスにより、世界的に映画は大打撃を受け、日本でも2020年5月の興行収入は、前年の同じ月と比べると98.9%減という過去最低を記録してしまった。劇場を運営する大手3社(東宝、東映、松竹)は自社配給作品や動員が見込まれる目玉作品の公開を8月以降に延期し、現在、TOHOシネマズではジブリ作品や過去作の上映も編成に取り入れたり、東映系では『仁義なき戦い』を始めとする名作や『長靴をはいた猫』などの東映アニメを上映、松竹系では主に洋画を編成に入れながら、『Fukushima50』などのカムバック上映をするなど工夫がなされている。
そんな中、当初4月17日公開を予定していたものの、緊急事態宣言中で、公開延期となった行定勲監督の話題作『劇場』が、7月17日にミニシアターを中心とした20館の劇場で公開 / Amazon Prime Video配信という日本映画界としては初の同日公開、配信という決断に出た。しかも200ヶ国以上で字幕を付けての全世界独占配信という世界へのお披露目となる。それ自体は賞賛に値するのだが、実際、今までにこの事例はなく、作品の評判的にも日本アカデミー賞や各映画賞などの対象作品に上がるのかが気になるところ。そこで渦中の行定勲監督に心境と配信の可能性について話を聞いた。
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―― 映画『劇場』が映画館公開と配信を7月17日に同時に行うと聞き、素晴らしいことだと感じつつ、映画賞が頭によぎりました。日本映画製作者連盟会長が「映画公開と同時にネット配信されたものは映画として認めない」と仰られていましたが、それについてどう思われていますか?
発言されたのは岡田会長ですよね。岡田会長が時間を作って僕に会って下さった時に仰っていたのは、「現状としての規定があるから、その覚悟があるんだったら別にいいよ」と。
要するに配信の会社がドンドン台頭してくると皆が“配信でいいんじゃないか”になって 映画館に誰も来なくなってしまうのではないかという考えがある。これは僕自身も困るし、やっぱり映画館にまずは来て欲しい。僕らは映画館で育って来たし、映画の良さは映画館で確立するのが一番いいんです。
映画館は人生の教科書、学校みたいな所だから行くべきですし。僕はそうやって育って来ているし、映画館がなくなることはないと思っているので岡田会長が言っていることに“NO”はないです。ただ、作品は別で、観客がどう思ったかが重要。最初は色々と考えたんです。 そもそも賞だって与えられるものだから、もらえるかもしれないなんてエゴを持つこと事態が滑稽で、評価は他者が決めるものだから 。
そんなことよりも今の状況の中で公開された日に、一人でも多くの観客に刺さること 、皆がSNSに感想を書いたりしてくれたら凄く嬉しいですし。 “あまり観ようと思ってなかったけど今日、配信開始してたから観た。思わず泣いちゃった” とかが拡がる可能性もあると思っています。
そして新型コロナが流行している中でも、僕は“どうしても劇場で映画を観たい”と思っている映画ファンや観ようと思っていた人にも届けたいという思いから映画館での公開も叶いました。
現段階では20館で上映するので、行くことが叶わない人も出てくると思いますが、 映画ファンやシネコンでしか映画を観ていなかった人達が劇場に詰め掛けてくれてミニシアターがいっぱいになってくれたら嬉しいです。僕としてはそういう気持ちでいました。
―― そんな思いだったのですね。試写で観た映画人からは、作品もさることながら、山﨑賢人さん、松岡茉優さんの演技の評価も高いですよね。
そうなんですよね。ただ、申し訳ないと思ったことは、 俳優たちがこの決断で、評価を奪われる可能があること。
ちょうど山﨑賢人と彼が映画『キングダム』で日本アカデミー賞の主演男優賞候補に選ばれなかった時に対談をして「この映画で主演男優賞候補に行こうぜ」って言っていたんです。それが一番最初に頭に過ぎっちゃって“規定って何だっけ?”と初めて考えました。
そうしたら“東京都内で一日3回上映を3週間以上続けた映画のみが日本アカデミー賞にノミネーションされる”という表記がありました。 インディペンデントの映画が日本アカデミー賞に上がってこない理由はそこにあるんですね。淘汰されているんです。
じゃあ、他の映画賞はどうですか?と関係者に聞いてみたら“2週間以上、劇場で公開された作品はOK”で配信についてはどこにも触れてないです。