May 20, 2018 column

朝ドラ『カーネーション』から7年! 渡辺あやがオリジナル脚本で書き下ろした話題のNHKドラマ『ワンダーウォール』

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現在、夕方に2話ずつ再放送されている、“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カーネーション』(大相撲や国会中継で休止になることも多い)。2011年に放送されて、その脚本のクオリティーの高さに従来の朝ドラ視聴者以外の見巧者の心もを掴み、朝ドラのイメージを変えた作品で、その脚本家・渡辺あやが、『ロング・グッドバイ』(14年)以来、4年ぶりにテレビドラマの脚本を書き下ろした。

それが京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』。
京都の大学(京宮大学〈架空のなまえ〉)の100年以上の歴史をもつ学生寮を舞台に、そこに住む“へん”な学生たちの青春もようを描く群像劇だ。
7月25日(水)午後9時からBSプレミアムでの放送(59分作品)を目指して、現在鋭意撮影が進行中。 5月11日からロケがはじまり、京都、滋賀などで撮影中。その合間を縫って5月19日(土)に京都市内で取材会が行われた。

出席者は、制作統括の寺岡環と、1500人のオーディションから選ばれた出演俳優である須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、成海璃子。

「京都でいま起きている大きな変化をテーマにしたい」と寺岡プロデューサー。それは、「歴史ある建物が効率重視や観光を目的に建て替えが進んでいる」ということ。いったい「何が起こり、何が失われていくのか」を学生寮に暮らすちょっと変わった住人たちを主人公に描いていくという。

地域発ドラマで、1500人規模のオーディションを行うことは稀。それだけ、この作品に対する熱が感じられる。寺岡がぜひ渡辺あやに脚本を書いてもらいたいとオファーし、渡辺は三ヶ月間ほどじっくり取材し、スタッフたちと話し合いもまじえて脚本を描き上げた。

歴史ある寮に、磨き上げられた秩序に則って暮らしている住人たちに、大学側から、老朽化による建て替えの計画がもたらされる。新しく建て替えたい大学側と、補修しながら現在の建物を残したい寮側とで起こる対立が平行線をたどるなか、寮生たちの前に、ひとりの美しい女性が現れて……。
公式サイトのあらすじの頭には、「恋かと思った。けど、かん違いだった。それでもこれは、ラブストーリーだ。」 というコピーが踊っている。古い建物の建て替えにまつわる話にとどまらない、広がりのあるものになるのではないか。

取材会では、渡辺から届いたメッセージを岡山天音が読み上げた。
以下、全文掲載する。

「まずは本作の脚本を私に委ねてくださった、25歳の前田悠希(ゆうき)監督に感謝したいと思います。

書く前と、書いた後に、監督はじめ若い人たちとたくさん話をしました。

その中からストーリーが生まれ、また『ワンダーウォール』というタイトルが決まりました。

私たちの日常は、あるいは社会は、いつのまにか多くの壁に囲まれた、ずいぶん息苦しいものになってしまっているのだな、というのが、若い彼らと話していて、いちばん強く感じさせられたことでした。

壁とは本来、私たちが弱い自分を守ろうとして建てるものなのだと思います。

けれども壁の中に守られるということは同時に、壁の向こうのわかりあえたかもしれない誰かや、ゆるしあえたかもしれない機会、得られたかもしれない強さや喜びを、失うということでもあります。

壁だらけの私たちの社会とは、そうした喜びがすっかり失われてしまった日常と言えるのかもしれません。

それでも私たちの人生は、そんなさびしい現状をあきらめ続けるためにではなく、いつか壁を乗り越え、ふたたび向こう側の誰かとの喜びを、とりもどしてゆくために続くのだと信じたいです。

前田監督は撮影の前に「壁の前で、人間は弱い存在だけれど、人が自分の弱さにもがく姿は美しいと思うから、自分はそれを撮りたい」と言われました。

そのこころざしに、これ以上は望みようもないほどそれぞれのキャラクターにふさわしく、魅力的なキャストを得て、作品は今、少しずつこの世にその姿を現そうとしています。

もっとも良いかたちでこのドラマをみなさまにお届けできることを、一同強く願っております。
どうかオンエアまで楽しみに、またあたたかくお見守りいただけますよう、よろしくお願いします。

2018年5月19日 渡辺あや」

 

岡山天音の役は4回生で理学部、物理専攻の志村。黒澤明監督の『七人の侍』の出演者・志村喬からとったあだ名で、知恵者キャラ。ほかに、三船敏郎にちなんだ猛者っぽい三船役(中崎敏)や、ヒッピーのようなマサラ(三村和敬)、ドレッドヘアのドレッド(若葉竜也)、ぱっと見は一番ふつうそうなキューピー(須藤蓮)とみな個性的。寮生活経験は実際にはない者たちばかりだが、役と本人が重なり合うところも見えてユニークな座組になった。

寮と大学の間に立つ、大学学生課職員・香役の成海璃子はこの日がクランクイン。「(寮生たちは)みんなすごくいいキャラクターで、私が男だったら寮生役をやりたかった」とうらやましそうだった。

4年前の連ドラ『ロング・グッドバイ』はレイモンド・チャンドラーが原作だったので、渡辺のオリジナルドラマは『カーネーション』以来となる。『カーネーション』の再放送で改めて渡辺脚本の厚みを感じているところだからこそ、『ワンダーウォール』に期待が高まる。早く見たい!

文・木俣冬

 

番組情報

 

京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』
7月25日(水)午後9時 BS プレミアム
脚本 渡辺あや
演出 前田悠希(初演出作)
音楽 岩崎太整(『モテキ』、アニメ『ひそねとまそたん』など。地元大学生とのコラボレーションを行う)
出演 須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、成海璃子ほか

http://www.nhk.or.jp/kyoto/wonderwall/index.html

 

文・木俣冬

 

文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
初めて手がけた新書『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中!
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062884273

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