Nov 30, 2022 interview

寒竹ゆり監督が語る “あの時代”を描き、いろんな世代の記憶や感覚とリンクする『First Love 初恋』

A A
SHARE

1990年代後半、北海道の田舎町で野口也英と並木晴道は出会う。ふたりは瞬く間に恋に落ち、きらめくような高校時代を過ごす。卒業するとCAになる夢を叶えるため也英は東京の大学へ、晴道は航空学生として自衛隊に入隊し、離れ離れに。さらに境遇の違いから気持ちも徐々にすれ違って、ある日些細なことでケンカ別れしてしまうのだった。それから20年の歳月を経て、運命はもう一度ふたりを引き合わせるが―。

1999年に発表された「First Love」、2018年の「初恋」。宇多田ヒカルの2つの名曲から着想を得て本作品は作られている。満島ひかりと佐藤健が也英と晴道を演じ、監督・脚本には寒竹ゆりを迎えて細部にまでこだわったシーンと演出で、豊かで繊細な初恋の物語を紡いでいく。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、Netflixシリーズ「First Love 初恋」の寒竹ゆり監督に、本作品の魅力、撮影のこだわり、映画への思いなどを伺いました。

池ノ辺 監督のご出身はどちらですか。

寒竹 生まれは東京なんですけど、名字は九州にルーツがあるみたいです。

池ノ辺 東京で育って、ずっと映画を観ていたんですね。

寒竹 子供の頃から映画が好きでしたが、最初は戯曲を読んでいたんです。中学生の頃などは図書館でニール・サイモンとかの戯曲をよく読んでいました。だから劇のほうに進むかなと思っていたんですが、大学に入る時には映画学科を選んでいました。

池ノ辺 子どもの頃から文章を書くことは好きだったんですか?

寒竹 そうですね。文章を書いたり絵を描いたり、8ミリカメラでドラマやドキュメンタリーの真似事みたいなものを撮ったり。脚本を書くというのはもちろんありましたが、それ以外にも美術や音楽が好きで、服やインテリアも好き、結局それは全部映画で表現できると思ったんですね。

時代の意識の移り変わりを背景にした20余年の初恋の物語

池ノ辺 「First Love 初恋」拝見しました。もう、号泣しました。しかも懐かしいものがたくさん出てきて、過去と現代の流れもスムーズで、引き込まれました。

寒竹 それは良かったです。

池ノ辺 今回は、宇多田ヒカルさんの「First Love」「初恋」という2つの楽曲を題材にして何か作ってほしいというNetflixさんからの依頼から始まったと聞いていますが、最初にその話がきた時にはどう思いましたか。

寒竹 音楽の力は大きいとは思いますが、その曲自体に引っ張られてそこに頼り切った話にはしたくない、作品としてのオリジナリティをどう表現していこうか、ということは一番に考えました。単純に言えば、その曲で思い浮かぶような主人公たち、彼らに起きていることをただなぞるだけのような物語であれば、やるべきではないと思ったんです。

池ノ辺 ある初恋の話というだけなのかなと思ったら、「First Love」が出た頃の1998年から現在に至るまでの20年間の時代背景がきちんとあって、それもまたストーリーをかたちづくっている。すごく奥行きの深いものになっていてすごいと思いました。

寒竹 最初からクロニクル(年代記)にしたいなと思っていました。実際の日本社会が経験してきたこの20年、自分が経験した20年、エポックとなった出来事は数多あるので、そうしたものは背景として取り入れようと思いました。

池ノ辺 脚本は、監督が自分で経験したり感じたことから書いていったんですか。

寒竹 もちろん物語自体はフィクションで、全てが自分の経験ではないですが、自分と同じ歳の主人公なので、その時代の記憶とか肌感があると思います。あの時代、こんな出来事が起きてどういう状況だったとか、そこからどう思考が動いていったのかとか、そういう時代に対する感覚というのは、これまで自分がやってきた中では一番経験則に基づいているかもしれません。