『アメリカン・サイコ』から『マネー・ショート』まで、ベールの“外見変貌テク”史
こうした極端ともいえる肉体改造は、クリスチャン・ベールのキャリアを遡ると珍しいことではない。まず2000年の『アメリカン・サイコ』では、サイコキラーであるエリートビジネスマンを演じるために、信じがたい筋肉美を作り上げた。半年もの間、ワークアウトと日焼けに費やし、当初はレオナルド・ディカプリオに決まっていたその役に、自分が回ってくることを待っていたという。全世界に衝撃を与えたのが、2004年の『マシニスト』。不眠症によって肉体が衰弱していく主人公のために、なんと29kgも減量。一日の食事はツナ缶とリンゴを1個ずつ。睡眠は一日2時間で、起きている間も10時間読書するなど精神的にも追い込み、あばら骨が浮き出るほどガリガリの肉体を完成させた。この減量は、さすがに周囲も心配したほどだった。
その後も2005年の『バットマン ビギンズ』で増量→2006年の『戦場からの脱出』で減量（捕虜役になりきるためウジ虫を食べたとか！）→2008年の『ダークナイト』で再び増量と、短いインターバルで役に合わせて体重を極端に変えたベール。アカデミー賞に輝いた2010年の『ザ・ファイター』ではドラッグに溺れるボクサーということで、激しいランニングも取り入れて14kgの減量に挑んだ。さらにこの時は、髪を抜き、歯も抜いて歯並びを変えるという徹底ぶりだった。
『ザ・ファイター』（Blu-ray・DVD 発売中） ©2010 RELATIVITY MEDIA. ALL RIGHTS RESERVED.
近年は、その変貌が“ネタ”となり、2013年の『アメリカン・ハッスル』ではドーナツとチーズバーガーを食べまくって約20kg増量し、たるみきった腹を堂々と披露。髪も一部剃ってバーコードヘアで笑わせてくれた。高等テクニックの外見作りとしては、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で、左目が義眼という役を演じるために、コンタクトレンズやCG処理など安易な方法をとらず、左右の目の動きを微妙にずらすという信じられない演技に挑んでいる。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』（Blu-ray・DVD 発売中） © 2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
こうしたストイックすぎる演技への取り組み方は、性格からくるものなのか？ 取材で何度が会ったことのあるクリスチャン・ベールは、ちょっぴり怖いオーラを漂わせる人だった。基本的に真面目に受け答えするが、その眼力は鋭く、いつ爆発してもおかしくない地雷を抱えているような雰囲気。場をなごませるために笑いをとったり、余計なコメントを提供したりするサービス精神は持ち合わせていない俳優である。
日本でも鈴木亮平が役に合わせて極端な増量・減量に挑んでいるのは有名だし、ハリウッドでは『レイジング・ブル』（80年）で現役ボクサーから中年の衰えた肉体まで表現したロバート・デ・ニーロによって“デ・ニーロ・アプローチ”という徹底した役作りがひとつの指針になったが、クリスチャン・ベールの“外見変貌テク”は彼らと比べても、ハードルが高いことが納得できる。しかもその変貌を当たり前のように毎回こなして、“自然”に役になりきっていることが、この『バイス』で改めて実感できるのである。
文／斉藤博昭
『バイス』
1960年代半ば、ワイオミングの田舎の電気工の酒癖の悪い青年チェイニーは、のちに妻となる恋人リンに尻を叩かれ、政界への道を志す。大統領主席補佐官、国務長官の職を経て、2001年、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任した彼は、“陰の大統領”として振る舞い始める。9.11の同時多発テロ事件では、法をねじ曲げることも、国民への情報操作もすべて意のままにし、ブッシュを差し置いて危機対応にあたり、悪名高きイラク戦争へと国を導いていく――。
監督・脚本：アダム・マッケイ
出演：クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル
配給：ロングライド
公開中
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公式サイト：http://longride.jp/vice/
『ザ・ファイター』
Blu-ray：1800円（税抜） DVD：1200円（税抜）
発売中
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『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
Blu-ray：1886円（税抜） DVD：1429円（税抜）
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NBCユニバーサル・エンターテイメント
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※2019年4月の情報です。
