Apr 06, 2019 column

もはや神レベル!クリスチャン・ベール『バイス』&これまでの“外見変貌テク”、究極の役作りを辿る

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どこまで役になりきることができるのか。それが俳優の仕事だとしたら、現在、世界で最も高いレベルでその仕事を達成しているのが、クリスチャン・ベールだろう。第91回アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた新作『バイス』でベールは、イラク戦争に踏み切ったブッシュ政権を陰で操ったとされるチェイニー副大統領を演じた。作品の魅力とともに、クリスチャン・ベールの人並外れた役作りに迫っていこう。

 

これぞハリウッドの真骨頂!社会派テーマをエンタメに昇華

 

タイトルの『バイス』とは、バイス・プレジデント=副大統領のことである。ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めたのが、ディック・チェイニー。ブッシュ政権といえば、大量破壊兵器を名目にイラク戦争を始めてしまい、後にその兵器の存在がなかったことが発覚するなど“失態”が有名だが、そのイラク戦争開戦などを裏で推し進めたのがチェイニーだとされている。そんな陰の実力者の若き日から、ホワイトハウスの支配、さらに家族のシビアなドラマにもフォーカスするのが、この『バイス』。

 

 

ブッシュ大統領の無能さも描くなど、一見、社会派映画のようでありながら、ユーモアや遊び心も満点で、一級のエンタテインメントとして楽しめるのが、『バイス』の魅力だ。このところ社会派テーマを、こうしてエンタメで描く作品が増える傾向で、同じく、イラク戦争の開戦を巡る『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』(17年/公開中)も、日本では『バイス』の一週間前に公開されたばかり。『記者たち~』は、大量破壊兵器の情報に疑問を持ったある新聞社の記者たちの攻防を描き、『バイス』とセットで観れば、より当時の状況と真実がビビッドに伝わってくるのだ。ブッシュ政権を描いた映画といえば、オリバー・ストーン監督の『ブッシュ』(08年)もあったが、そちらもブラックなユーモアが詰め込まれていた。日本では過去の総理大臣を皮肉る作品などは生まれにくいが、このあたりはハリウッドの真骨頂だろう。

 

 

『バイス』の監督、アダム・マッケイは前作の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15年)でもリーマンショックの裏でうごめく男たちの暗躍を軽妙に描いており、もはや社会派エンタメの第一人者。マッケイにこうした映画を撮り続けさせているのが、ブラッド・ピットの製作会社プランBエンターテインメントで、毎年のようにアカデミー賞に絡む作品を送り出す、同社の“信頼感”は揺るぎないものとなった。

そのアカデミー賞で『バイス』は作品賞をはじめ8部門にノミネートという快挙を成し遂げた。今年のアカデミー賞は“本命不在”などと言われる激戦の中、アダム・マッケイは『マネー・ショート~』に続いて監督賞にノミネート。作品賞も連続してノミネートされ、ハリウッドの巨匠の一人になったことを証明した。

 

 

当初、アカデミー賞の主演男優賞で最有力とされていたのが、この『バイス』のクリスチャン・ベールだった。今年は主演男優賞がハイレベルの激戦で、作品賞受賞の『グリーンブック』(18年)のヴィゴ・モーテンセンも有力とされる中、賞レースの後半、『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)のラミ・マレックへの追い風が強まり、結局、オスカーはラミの手に渡った。しかし最後までベールの受賞を予想していた人も多く、おそらく投票数は僅差だったと思われる。ラミ・マレックも、ヴィゴ・モーテンセンも、そしてクリスチャン・ベールも、演じたのは実在の人物。ステージでの“パフォーマンス”という点で、フレディ・マーキュリー役の演技が、ライバルより“わかりやすい”というメリットはあったはず。一方でチェイニー役のベールは、もはや演じている本人が誰なのかわからないほどの、なりきりぶり。ある意味で、演技の常識を超えた神レベルではないか。

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