20代~70代のチェイニーをどう作り上げたのか?
クリスチャン・ベールは『バイス』で4度目のアカデミー賞ノミネート。2回が主演男優賞で2回が助演男優賞。このうち受賞が1回(2010年の『ザ・ファイター』の助演男優賞)で、賞レースの常連スターと言っていい。ベールの場合、外見を変える役作りが、他の俳優に比べても尋常でないことは、すでに映画ファンにとっては周知の事実。そんな映画ファンにとっても『バイス』のチェイニー役は、ベールの変貌ぶりに驚きを禁じ得ないはずだ。
まず目を疑うのは、チェイニーの20代から70代までをクリスチャン・ベールが一人で演じきったこと。これは、妻のリンを演じたエイミー・アダムスも同様である。現在、クリスチャン・ベールは45歳。ちょうど演じた年齢幅の中間くらいなので、無謀ともいえるチャレンジが可能になった。
大酒飲みでケンカっ早く、野心満々で政界入りをもくろむ20代は、比較的、現在のベールに近いが、映画のメインの部分となる副大統領時代のチェイニーは60代。素顔のベールとは別人である。演じる年代に合わせてメイクアップが変わり、20代では鼻にシリコンが入れられ、30代は頬を少しだけふっくらにして、40代~50代では頬に加えて顎にもふっくらさせるピースが装着された。そして60代のシーンは、撮影前に、なんと5時間もかけて特殊メイクが施された。頬や顎だけでなく首の後ろにもピースが付けられ、でっぷりしたシルエットになったうえ、髪の毛は剃って白髪の薄毛頭が完成された。『バイス』がアカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したのも納得の変貌ぶりである。
さらに特筆すべきは体重で、チェイニー役のためにクリスチャン・ベールは半年間かけて20kgも増量した。とにかくパイをたくさん食べ続け、一気に15個の卵を食べるなど、かなり無謀な食生活に挑戦。この食事メニューは栄養士のアドバイスに従ったのだが、後に「肉体も特殊メイクに頼れば良かった」と後悔したとも言われている。しかし自ら太ったことでチェイニーらしい肉体の動きが表現できたことも事実だろう。そして中年になってからずっと心臓に疾患を抱えていたチェイニーということで、ベールはその部分も綿密に研究して、さりげない動きをリアルに表現しているのだ。