Jan 28, 2021 column

30:今も輝き続けるプレイステーション産みの親 久夛良木健 (1)

A A

業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

30:今も輝き続けるプレイステーション産みの親 久夛良木健 (1)

29「業界イベントに参加するべき理由 (2)」はこちら

昨年、ある驚きのニュースが目に入りました。プレイステーションの生みの親でもある久夛良木健さんが、AIスタートアップの”アセントロボティックス”の社長に就任したとのことです。自動運転に関する技術だそうですが、久夛良木さんなら何か面白いことをしてくれるのではないかととても期待しています。 

私は幸運なことに、素晴らしい経営者の方々と仕事を共にする機会に恵まれました。ソニーの盛田昭夫さん、大賀典雄さん、出井信之さん、セガでは大川功さん、中山隼雄さん、入交昭一郎さん、ディズニーではマイケル・アイズナーやボブ・アイガー。それぞれ皆さん、強烈な個性をお持ちでしたが、こと久夛良木さんに関しては、その個性はそうそうたる顔ぶれにも劣っていないと思います。 

5回目のコラムでも書きましたが、久夛良木さんと最初にあったときは、ソニー社内で一部のエンジニアからは注目は浴びていたものの、まだ課長職くらい。しかも、当時社内では「ソニーのほら吹き3大エンジニア」と揶揄されていた一人でもありました。ちなみにこのほら吹きと呼ばれていた方々は、その後いずれも素晴らしい結果を残した方々ばかりです。そんな彼の元に、任天堂からの提携話を反故にされソニーとしてゲームビジネスをどうしていくかという提案書をまとめる際の手足として、本社の企画管理部門から私が送り込まれたのです。 

本社の経営企画にいると接触するのは基本的に取締役以上の方が多く、しかも堅苦しく決まりきった話が多いのですが、ゲームの話は混とんとしており、かつ偉い人もおらず、久夛良木さんに対するレスペクトもない状態で私としては気軽な気持ちで参加しました。それ以降、久夛良木さんとあちらこちらへと行動を共にしました。 

当時、任天堂と対抗しジェネシス(メガドライブ)というゲームプラットフォームを持っていたセガにも一緒に行きました。共同でプラットフォームを作る可能性はないのかとキーマンを捜し話を聞きに行くと、あっさり可能性を一蹴されます。私は一生懸命セガに対して営業したつもりですが、久夛良木さんは相手の反応に全く動揺せずそりゃそうだろうという態度でした。 

今から考えると、もう自分達でやる算段を頭の中で立てていたのだと思います。ある時などは、ゲームプラットフォームのもう一つの候補、エレクトリックアーツ(EA)のファウンダーTrip Hawkinsが作った”3DO”のプラットフォームの発表をCESに一緒に見に行き、私がそのプレゼンテーションの上手さに感心していたところ、そのあと2-3時間「あんなプレゼンに感動するとはけしからん」と延々と説教をされてしまいました。きっとTripのプレゼンを見て、自分であればもっとという気持と、少しうらやましいという気持が爆発していたのだと思います。そういう子供っぽさが久夛良木さんにはありました。 

私が勝手に確信しているのですが、あのTripのプレゼンのやり方を見て久夛良木さんは随分インスピレーションをもったはずだと思っています。当時、開発担当の取締役という立場でプレイステーションを発表した際には、自らそのスペックやゲームの可能性についてプレゼンをするという、日本のゲームプラットフォームの発表では過去にない形をとり、その後もその形式をとり続けたのもその影響だと思っています。実際、その後の久夛良木さんのプレゼンは、業界に長いあいだ影響を与え続ける指針になっていました。 

Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史

内海州史

1986年ソニー㈱入社、本社の総合企画室に配属。その後、社内留学制度でWhartonでMBA取得。ソニー・コンピューエンタテインメントの設立、プレイステーションのアメリカビジネスの立上げに深く携わる。その後、セガ取締役シニア・バイス・プレジデントに就任し、ドリームキャストの立上げを経験。ディズニーのゲーム部門のアジア・日本代表時に日本発のディズニーゲーム作品『キングダムハーツ』の大ヒットに深くかかわる。2003年にクリエイターの水口哲也氏と共にキューエンタテインメントを設立し、CEO就任。ビデオゲーム、PCやモバイルゲームにて多くのヒットを輩出。2013年ワーナーミュージックジャパンの代表取締役社長に就任し、デジタル化と音楽事務所設立を推進。2016年にサイバード社の代表取締役社長に就任。現在株式会社セガの取締役CSO、ジャパンアジアスタジオ統括本部本部長。