業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。
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前回は、 世界で有数のmarket cap(時価総額)とキャッシュを持ったプレイヤー達として、GAFA( Google / グーグル、Amazon / アマゾン、Facebook / フェイスブック、Apple / アップル、Microsoft / マイクロソフト )が大きく影響をもたらし、さらに近年は中国のBAT( ByteDance / バイトダンス・字節跳動、Alibaba / アリババ・阿里巴巴、Tencent / テンセント・騰訊 )がグローバル戦線に加わった話と、 “ジェネレーションZ”とも“ミレニアム世代”とも呼ばれる、ソーシャルネイティブ世代 にメインユーザーが変わったという話を書きました。今回は、第三の波コンテンツ制作と流通の話です。
第三の波:参加プレイヤーの増加、コンテンツ量の爆発
音楽・映画・ゲームなどのエンターテインメント業界への新規参入企業の大きな参入障壁は、コンテンツ制作と流通だということはご存じでしょうか。
まず、コンテンツ制作には専門的な知識とコスト(固定費)が大きく立ちはだかります。楽曲をレコーディングするには、サウンドエンジニアがいるスタジオ設備の中で録音をしていました。アーティストがスタジオにこもり、何日もかけて莫大な製作費で楽曲をつくるというのが、かつてのおなじみの光景でした。動画も同様に、大掛かりな機材と設備そして莫大な予算と人材によって制作されていました。ゲーム業界でも、制作に関する非常に高度で専門的な知識とワークステーションといわれる高価な機材が必要で、一部の人のみが作り得る特殊技術だったのです。
ところが今では様相が一変しました。音楽はPCと市販の音楽制作ソフトを使い、小さな録音スペースで曲作りを行う人も増え、動画コンテンツも機材の高性能化によって専門の機材でなく一般的な4Kカメラや、はてはiPhoneなどのスマートフォンで撮影し、PC上のソフトウェアで編集まで行えるようになりました。ゲームもUnity やUnreal Engineといった開発ツールによって比較的簡単に制作ができますし、機材もハイスペックな性能のPCを使うことで、昔と比べると格段に安くなりました。インディーと呼ばれる独立系の会社が、音楽でも動画でもゲームでも大活躍というのが日本のみならず世界の潮流となったのです
そして、過去の流通は常に作品を棚を埋められるメジャーなパブリッシャーがスペースをおさえ、新規参入組はモノも置かせてもらえませんでした。私が鮮明に覚えているのは、ソニーがCBSレコードやコロンビアピクチャーズなどのエンターテインメント事業を買収した際、当時の社長の大賀典雄さんが「レコード会社も映画会社も本質的に買ったものは流通だ」とスタッフに言った言葉です。私はてっきりクリエイティブを買ったと思っていたので、流通を買ったという言葉は意外だったので特に記憶に残っています。ただ、実務を経験していくと、“買ったものは流通だ”と言った意味も分かってきました。
一例を書くと、ウォールマートは、かつてゲーム販売において米国の30%近いシェアを持っていたことがあります。ただし、棚のスペースを占領しているのは売れ筋作品に限られており、メジャーなパブリッシャーしかなかなかおさえられないスペースだったのです。
ところが、ネットがコンテンツの流通を劇的に変えました。ネット上でのユーザーターゲッティングは比較的簡単で、ユーザーを特定できたあとはそのままダウンロード購入やストリーミング利用に誘導すればよいのです。物理的な流通からの解放が、新しい企業が業界参入や作品発表の機会をどんどん促していったのです。物理的な流通がメインだった時代と違い、ネットでの流通に変わったことで、全世界で一日に作られている音楽や動画やゲームなどのコンテンツは、大量に作られ続けています。すでに一生かかっても消費することができないほどの量になっているのではないでしょうか。
プレイステーションのビジネスプランを作る時の話です。当時は契約上プラットフォーマーが売っていいタイトルを決められる為、年間何本くらいソフトの承認をすべきかという議論がよく行われていました。過去にアタリ社が品質の低いゲームを乱発し、それらの在庫で会社が潰れた(アタリショック)ことから、当時の任天堂が厳しくタイトル数をコントロールしていたのですが、プレイステーションでは、他のゲーム機との差別化のために、より多くのユニークなソフトを市場に投入しようと挑戦していました。しかし、いくら多く投入しようと言っても年間300本、毎日1本発売するのはさすがにやりすぎであろうと考え発売本数を絞ったものです。しかし、現在スマホのゲームは有象無象合わせると1日にその何倍ものコンテンツが提供されています。
そのため、ビッグプレイヤーは多くのタイトルを投入するのではなく、予算を莫大にかけインパクトのある作品を作り、その恩恵として大きなリターン(消費)を世界中より得るという勝負に出ます。例えば、ネットフリックスは、かるく映画制作の予算を超えるスケールのお金を投入して作品を作っています。ゲームに至っては作品制作資金の額が大きいだけでなく、ゲーム“パッケージ”を売るのではなく、“サービス”を売ることへと事業を変化させてきています。
現在PCやモバイルでのゲーム事業では、KPI (Key Performance Index)と呼ばれる様々なユーザーの行動履歴や指標(継続率、課金率、一人当たり課金額など)を見ながら運営をするのですが、これはコンソールゲームとは全く違う文化やビジネスのやり方なのです。このようなゲームはもはやプロダクトでなくサービスなのです。多くのプレイヤーたちが延々と世界中でみんなが同時に遊べる環境をゲームという形をとってサービスを提供することによって、1本のゲームでmarket cap が1兆円に迫る企業まで出てくるのです。(5つのビッグトレンド(3)へつづく)
Entertainment Business Strategist
エンタメ・ストラテジスト
内海州史