Aug 27, 2021 column

映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン

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40時間の映像からクエストラブが厳選~すべての過去現在未来の点が繋がる

そして40時間以上のアーカイブ映像を繰り返し何度も見て自身で鳥肌が立ったところを丹念にメモし、2時間ほどの映像作品にまとめたのがザ・ルーツのリーダーでもあるクエストラブだ。当初このフェスが行われたことも知らなかったクエストラブはこの監督を依頼されたときに、とても荷が重いと躊躇したが、この映像を見せられ、自身映画を監督したことはなかったが、ライブイべントをキュレーションするように、この映画もキュレートすればいいのではないかと考えるに至り監督を引き受けた。

2020年クエストラブはすっかりこの映像に没頭していたが、様々な方法で当時このフェスを実際に見た人を探し出し、インタビューを敢行。さらに、出演者でもあるフィフス・ディメンションのマリリン・マックー、ビリー・デイヴィス、グラディス・ナイトらにもインタビュー。当時のことを振り返ってもらい、それを本編に巧みに編集した。この現在の視点をいれたことによって、ただの50年前の記録映像が、50年後の現在へと点と点がつながることになった。

特に1969年は、その前年1968年4月にメンフィスで公民権運動の指導者のひとり、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたことや様々な要因が重なり、全米各地で黒人の暴動が起こっていた時期でもあった。こぶしを天につき上げる「ブラック・パワー」、あるいは「ソウル・パワー」の動きも大きな時代のうねりになっていた。警官の暴力などは、2020年になって再度大きな盛り上がりを見せた「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動とまさに同じことが起こっていた。時代の空気は当時と現在がまるで「パラレル(並行線)」を描いているかのようだとクエストラブは語る。

映画『サマー・オブ・ソウル』は、1969年のカルチャーがすべて飛び出てくるタイム・マシーン

なぜ50年も埋もれていたのか~そしていかに発掘されたか

見どころは、もうすべてとしかいいようがないが、個人的には中でもグラディス・ナイトとマリリン・マックーは当時まだ25歳という若さでその魅力にやられてしまった。

ところでなぜこれほどの迫力ある映像が50年も埋もれていたのか。それはタルチンも語っていたが「当時は誰も、こうしたものに興味を示さなかった」ということに尽きるようだ。まだ『ウッドストック』の映画もでていない時期で、音楽映画もほとんどなかったので、この歴史的意義などは語られなかったらしい。同じブラックの音楽映画としては、1972年の『ワッツタックス』というライブ映画があるが、それもこの3年後だ。

タルチンも地元のテレビで1時間程度の特番を組んでもらったほどで、劇場用映画にすることはできなかった。

では、なぜ半世紀も埋もれていた記録映像が埃まみれの倉庫から掘り起こされたのか。それはリサーチャーのジョー・ラウルという人物が、古い「テレビガイド」誌を片っ端から見ていて、その中でテレビで放映された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」を見つけたことがきっかけとなった。2004年頃のこと。彼がいろいろ調べてハル・タルチンにたどり着き、映像をデジタル化、まとめようという話につながったという。

紆余曲折あり、元々は2019年、ちょうど実際のイべントから50年の節目で公開を考えたが、予想以上に時間がかかり、2年遅れで完成、公開となった。

何でも撮影し、記録を残す。それこそが歴史の証人となり、それらの記録が歴史そのものとなる。世の中、断捨離ばかりしていては、このような歴史は残らない。

50年の深い眠りから目覚めたこれらの映像には、そこに参加したアーティストだけでなく、そこに参加した観客全員のストーリーが語られるかのようだ。それはまるでタイムカプセルの蓋を50年後に開けたような感動に包み込まれる。

文 / 吉岡正晴(音楽ジャーナリスト)