Apr 25, 2019 column

キャプテン・マーベル/シャザムが辿った複雑すぎる壮大な80年の歴史!

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ついに公開されたDCEU最新作『シャザム!』。全世界で大ヒットを記録し、ここ日本でも話題を呼んでいる。『シャザム!』の面白さに触れ、より知りたい! と思った方も多いだろう。ただ、インターネットの大海を通じて「シャザム!」について調べた方は、ひとつの驚きに直面するだろう。「シャザム!」が「キャプテン・マーベル」と呼ばれていることを……。
きっと「あれ? キャプテン・マーベルは、MARVELのヒロインじゃないの?」と思うだろう。それも正解。しかし、シャザムもキャプテン・マーベルなのだ。なぜ「キャプテン・マーベル」が「シャザム!」と呼ばれるに至ったのか? これは一人のヒーローが歩んできた長きにわたる大河ドラマである。

スーパーマンを超えた存在、キャプテン・マーベル

1938年はコミックの歴史上、最も偉大なる一年のひとつである。ナショナル社(後のDCコミック)がスーパーヒーロー「スーパーマン」を生み出したのだ。人知を超えた力を持って悪を退治する心優しきスーパーマンの登場は少年少女の心を瞬く間に掴み、大ヒットを記録した。スーパーマンの登場は、新たなヒーローの誕生を呼び込んだ。翌1939年には『Detective Comics』がバットマンを生み出す。暗さを纏ったクライムファイターの登場はヒーローの形を押し広げた。

スーパーヒーローコミックブームが沸き立つ中、各雑誌社は流れに乗ろうとオリジナルのヒーローコミック制作に乗り出す。作家のビル・パーカー、イラストレーターのC・C・ベックにより生み出されたフォーセット社のオリジナルヒーロー「キャプテン・マーベル」も、その大きなうねりの中から登場したひとつであった。時は1939年末。ワンダーウーマンも、キャプテン・アメリカも、まだ生まれる前の話だ。

物語はこうだ。「路上で生活しながら新聞配達で生計を立てるビリー少年はある日、謎の男に導かれ列車に乗りこむ。ビリーは洞窟の先で出会った謎の老人から教わった魔法『シャザム!』を唱えることで6つの特殊能力(“ソロモンの叡智、ヘラクレスの力、アトラスの体力、ゼウスの全能、アキレスの勇気、マーキュリーの神速”。これら古代の英雄や神の頭文字をとって「SHAZAM!」と呼ぶ)を持ったヒーロー、キャプテン・マーベルにできるようになった」。

……どこにでもいる普通の少年が、魔法の力でスーパーヒーローに“変身”するという斬新なアイディアは、瞬く間にビリーと同じ年頃の少年少女の心を掴んだ。翌1941年には『Adventure of Captain Marvel』のタイトルで初の実写映画化、一時期には毎月130万部を売り上げるという驚異的な数字を記録。キャプテン・マーベルは我が世の春を謳歌していた。

しかし、キャプテン・マーベルの活躍に水を差す出来事が、同1941年に起こる。DCが「キャプテン・マーベルはスーパーマンの模倣だ」とフォーセットを相手取り裁判を起こしたのだ。この当時、ナショナル側は後続の「マスターマン」、「ワンダーマン」といったタイツをまとった空飛ぶ筋骨隆々のスーパーヒーローを、同様に「スーパーマンの模倣だ」とみなし、数々の訴訟を起こしては勝利してきたのだ。

もちろんフォーセット側も黙るはずがない。キャプテン・マーベルにはスーパーマンとは違う独創性があるとして、真っ向から対峙した。その戦いの最中も「キャプテン・マーベル」の物語は広がり続けた。1941年にはビリーの相棒としてフレディ/キャプテン・マーベルJr.が、1942年には生き別れていたビリーの双子の妹、マリー/マリー・マーベルが登場。さらにはビリーと同姓同名の少年3人、謎のおじさん、人語を話す二足歩行のトラ……と様々な仲間を加えて物語を拡大し「マーベル・ファミリー」シリーズもスタート。現実の辛い状況をはねのけるかのように売り上げを伸ばし続け、1944年には年間1400万部を販売、第二次世界大戦中のコミック売り上げNo.1の金字塔を打ち立てる。その人気はスーパーマンに並ぶ、どころか超えたとすらいえる状況であった。