ハリウッドのレジェンド的な存在であるロバート・レッドフォードが、ついに俳優業を引退すると決意した。最後の主演作に選んだ『さらば愛しきアウトロー』(18年)は、そんな彼のフィナーレを飾るうえで最高の作品になっている。同作の公開に合わせて、改めてレッドフォードのキャリアを振り返ってみたい。世紀の美形スターとして愛されたのはもちろん、監督としての才能を発揮し、新たな世代の活躍も後押ししてきたレッドフォード。その人生は、まさにレジェンドの称号にふさわしい。
役者人生とシンクロする俳優引退作
「この作品が最後」と、引退を決意する。
突然の死に見舞われたり、キャリアがフェイドアウトしていくスターも多いなか、こうして自ら引退作品を宣言できる俳優は幸せだ。
8月に83歳となるロバート・レッドフォードが、俳優引退作品に選んだのが『さらば愛しきアウトロー』。たしかに引退を考えてもおかしくない年齢で、レッドフォード自身、そろそろ決意しようと思った矢先、本作の脚本を読んで最適だと判断したという。厳密に言えば、全米では『さらば愛しきアウトロー』の後に公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)にも登場している。ただあちらは、ごく短いシーン。最後の主演作は『さらば愛しきアウトロー』で、ここ日本では公開順が逆になったことで、レッドフォードの思い描いた幕引きを実感できるわけだ。
なぜ『さらば愛しきアウトロー』が俳優引退作にふさわしいのか? それはロバート・レッドフォードの俳優人生と、あまりに美しくシンクロするからだ。彼が演じたのは、実在の銀行強盗。しかし、その見てくれは品のいい老紳士。銀行の窓口でチラリと拳銃を見せるだけで、大金を持ってこさせる。ありえない手口を繰り返すわけだが、これは1980年代初頭の実話がベースになっている。当時だからこそ可能だった犯罪であり、しかも実際に拳銃を使うことはないので、アウトローなのにどこか親しみやすく人間くさい。追いかける警官でさえ彼の魅力を認めてしまう。しかも歳を重ねても、恋することを忘れない…。
ロバート・レッドフォードがこれまで演じてきた役のエッセンスがあちこちに感じられるうえ、60年におよぶ俳優人生を経て、“演技をしているように見えない”神レベルの境地を感じさせる。さらに、ある重要なシーンで、その長いキャリアを回想させるサービスもあったりと、映画ファンにはたまらない一作になっているのだ。