Jul 13, 2019 column

愛しきアウトロー、名優ロバート・レッドフォードの偉大なる功績

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デビュー作でオスカー受賞、監督としての手腕

彼に“映画を撮る”という想いを強くさせたのが、シドニー・ポラック監督。映画デビュー作の『戦場の追跡』(62年)では俳優として共演し、親友となったのがポラックで、その後レッドフォードは彼の監督作に7本も出演することになる。『雨のニューオリンズ』(66年)、『大いなる勇者』(72年)、『追憶』(73年)、『コンドル』(75年)、『出逢い』(79年)、『愛と哀しみの果て』(85年)、『ハバナ』(90年)だ。一人の監督とこれだけ組むということは、固い友情だけでなく、レッドフォードの“一緒に映画を撮る”という欲求を高めることになったはず。

『愛と哀しみの果て』(Blu-ray・DVD 発売中) © 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.

こうしてレッドフォードは、1981年、満を持して監督デビューを飾った『普通の人々』で、いきなりアカデミー賞監督賞を受賞してしまう。同作は作品賞を含めて計4つのオスカーを獲得した。長男を事故で亡くした母が、次男に対して辛く当たるようになるなど、複雑な家族関係を生々しく描いた『普通の人々』の物語は、それまでのレッドフォードの出演作とはずいぶん作風が違っており、映画を作る側としての“強い意思”も感じさせた。

映画を“撮る”才能も認められたレッドフォードは、その後も俳優と並行して、さまざまなジャンルの監督作を発表し続けた。とくに愛された作品を挙げるなら、『リバー・ランズ・スルー・イット』(92年)か。モンタナ州の大自然をバックに、フライ・フィッシングで絆を確認する父と兄弟の物語で、弟を演じたのが、ブラッド・ピット。当時のブラピは、“レッドフォードの再来”と騒がれていた。監督とキャストで、世代を超えた最強イケメンがタッグを組んだわけである。レッドフォードからブラピへ、スターの輝きが受け継がれた、記念すべき作品だ。

プロデューサーとしても、ウォルター・サレス監督の『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04年)などを世に送り出したレッドフォード。このように新たな才能に光を当てる彼の生き方を象徴しているのが、サンダンス映画祭だろう。

クリエイターの登竜門、サンダンス映画祭

大ヒットした『明日に向って撃て!』の出演料で、ユタ州のコロラド山中に購入した土地を、役名のサンダンス・キッドからとって“サンダンス”と命名。1978年、ユタ州のパークシティで“ユタ・US映画祭”を開催し、1981年にはインディペンデントの映画製作を支援する“サンダンス・インスティテュート”を設立した。1985年、映画祭の名も“サンダンス映画祭”となり、新たなクリエイターの登竜門として、クエンティン・タランティーノやスティーヴン・ソダーバーグ、ブライアン・シンガー、ロバート・ロドリゲス、ジム・ジャームッシュらの錚々たる才能を世界に広く知らしめる役割を果たしていく。近年もサンダンス映画祭でグランプリを受賞し、その後、アカデミー賞などに絡み、大監督になった例は多い。『フルートベール駅で』(13年)で受賞のライアン・クーグラーは『ブラックパンサー』(18年)を、『セッション』(14年)で受賞のデイミアン・チャゼルが『ラ・ラ・ランド』(16年)というように…。

映画監督としての成功を夢見る数多くのクリエイターたちが、このようにロバート・レッドフォードが敷いた線路の上を辿っていったのである。

大自然に囲まれたサンダンスの地をこよなく愛するロバート・レッドフォードは、映画の都、ハリウッドという“本流”ではなく、ユタ州という“支流”から映画の才能を送り出しながら、つねに“ナチュラル”な生き方を貫いてきた。彼の人生を重ねながら、引退作である『さらば愛しきアウトロー』を観ることは、至上の映画体験になることだろう。

今後も監督は続けるというレッドフォードだが、願わくば、俳優引退宣言を翻し、新たな作品でスクリーンに再び登場してほしい。しかし、『さらば愛しきアウトロー』が本当に最後の出演作になるのなら、これほどカッコいい幕引きもない。それだけは断言できる。

文/斉藤博昭

公開情報
『さらば愛しきアウトロー』

1980年代アメリカ。紳士的な犯行スタイルで、銀行強盗と16回の脱獄を繰り返した伝説の銀行強盗フォレスト・タッカー。事件を追うジョン・ハント刑事は、一度も人を傷つけず2年間で93件もの銀行強盗を成功させた彼の仕事ぶりに魅了され、仕事に疲れるだけの毎日から逮捕へ向けて再び情熱を取り戻す。フォレストが堅気でないと感じながらも、心奪われてしまった恋人もいた。そんな中、フォレストは仲間と共に金塊を狙った大仕事を計画するが――。
原作:デイヴィッド・グラン『THE OLD MAN &THE GUN』
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイセク、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツ、チカ・サンプター
配給:ロングライド
公開中
Photo by Eric Zachanowich. © 2018Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
公式サイト:longride.jp/saraba/

DVD情報
『明日に向って撃て!』

Blu-ray:2381円(税抜) DVD:1419円(税抜)
発売中
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『スティング』

Blu-ray:1886円(税抜) DVD:1429円(税抜)
発売中
NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 1973 Universal Studios. Renewed 2001Universal Studios. All Rights Reserved.
※2019年7月の情報です。

『追憶』

Blu-ray:2381円(税抜) DVD:1410円(税抜)
発売中
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1973 RASTAR PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『愛と哀しみの果て』

Blu-ray:1886円(税抜) DVD:1429円(税抜)
発売中
NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 1985 Universal Studios. All Rights Reserved.
※2019年7月の情報です。