Dec 23, 2017

コラム

燃え尽きる直前にバンドの純心と欺瞞を縫合し、臨界点にて自らへの哀悼の意を凍らせた最後のオリジナルアルバム。それが『PSYCHOPATH』である。

=6th Album『PSYCHOPATH』(1987年9月リリース)=

ネクタイを締めていても首周りから冷たい風が入り込んでくる、山茶花が美しくも悲しく目に映るこの季節になると、心臓が強張っていくような何とも言えない気分に取り憑かれる。バンド疾走のスピードは短期間に最高速度に達しているのに、ゴールテープを爽やかに切るというような想像のヴィジュアルは湧き上がらず、痛切な最後だけが頭をもたげるばかり。それでもBOØWYは走っているのだから、異を唱えるのも安易に思えて塞ぎ込んでしまうのが、1987年の後半だった。

5thオリジナル・アルバム『BEAT EMOTION』を’86年11月8日にリリースし、’87年12月24日に渋谷公会堂にて解散宣言をするまでのおよそ1年間、BOØWYの活動には、それまでにはなかったタフネスが付帯していた。『BEAT EMOTION』発売の3日後には、“ROCK’N ROLL CIRCUS TOUR”をスタートさせ、37公演をおこなった。
周知のようにこのツアーは当初、サーカス用のテントを建て、会場とし、そこでライブをするという考えであったが、サーカス団側から「地均しをするためのゾウを引き取ってもらわないと困る」との要請を受け、泣く泣く断念せざるを得なかったというエピソードが残っている。
結果、通常のホールツアーとなったのだけれども、ある意味でROCK’N ROLL CIRCUS TOURはライブを第一義に考えてきたBOØWYの完成形に近いものだったと僕は捉えている。「B・BLUE」で本編がスタートし、アンコールのラストには「ONLY YOU」が据えられたセットリストは、BOØWYの初期にあったパンキッシュな持ち味を汎用性のあるポップネスに昇華したものであったし、4人の個性が立ち居振る舞いとしても定着した演奏は、ステージから淀みない美しさを放つに至ったのである。
ゆえに『BEAT EMOTION』に続くアルバムは、その亜種でもあり過去とのミックス作になるとばかり思っていた。それで僕は充分だとも思った。バンドが達した頂上からの眺望をひとしきり楽しみ、自分たちの辿った音楽性の道のりを反芻してみることだけでも充分意味があった。

けれど、彼らはそうした停滞と黙考の時間を作らなかった。
個人的に“この生き急ぐような企画は、解散というバンドの死に向かっているからではないか?”と思い始めたのは、87年7月31日と8月7日に神戸ワールド記念ホールと横浜文化体育館でおこなわれた”CASE OF BOØWY”なるおよそ4時間にも及ぶライブだった。自分たちの楽曲をほとんど全て演奏する主旨、つまりは「全放出」という明確なテーマを半ば課したライブ・パフォーマンスは、若気の至りで壊してしまう何かを凝視しようとする行為だったと思う。「充分に引き付けてから撃て!」と狙撃手が自らに言い聞かせる時、狙うべき標的は自分たちだったのではないだろうか?
したがって”CASE OF BOØWY”を僕は脳天気に楽しむことができなかった。空調がさほど効かない、しばしばプロレスが開催される横浜文化体育館で吹き出た汗は、大量の冷や汗だったのかもしれない。
野外イベントを含め、87年の夏は僕にとって“マジック・サマー”と形容できる季節だった。

そして、夏の後ろ姿が見え始めた9月5日に、BOØWYにとって最後のオリジナル・フルアルバム『PSYCHOPATH』がリリースされた。

佐伯明

1960年 東京都国立市生まれ

中央大学文学部仏文科卒。17歳の頃から音楽雑誌に投稿をはじめ、以後、自称“音楽文化ライター”として現在に到る。

著書として「路傍の岩」(ソニー・マガジンズ)のほかに「らんまるのわがまま」(音楽専科社)、「音楽ライターになりたい」(ビクター・ブックス)「B’z ウルトラクロニクル」「ミラクルクロニクル」(ソニー・マガジンズ)などがあり、共著に「桑田佳祐 平成NG日記」(講談社)「徳永英明 半透明」(幻冬舎)「もういらない 吉田拓郎」(祥伝社)などがある。

独自の文体と鋭い音楽的視点は、リスナーから高く評価され、アーティストの間にも‘佐伯ファン’は少なくない。

現在、FM横浜にて「ロックページ〜ミュージック・プレゼンテーション」の構成を担当
https://twitter.com/RockPage_847

https://www.facebook.com/fmy.rockpage?ref=profile

佐伯明blog 音漬日記 参
http://otodukenikkisan.blog.so-net.ne.jp/

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