Oct 14, 2017 column

憧れと挑むべき高い頂に向かって、BOØWYが制作した最初にして最後のコンセプト・アルバム、それが『JUST A HERO』である。

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「概念」とは、一般的には“ ある事物の概括的で大まかな意味内容”のことを指す。
大まかであるから大雑把(おおざっぱ)な認識だろうと捉えがちになるけれども、これが、哲学の領域に入ると、定義が非常に細密になる。

個々の事物の抽象によって把握される一般的性質という定義である。

「判りにくい!」と怒号を上げることは、当コラムの読者にはほぼいないだろうが、“個々の事物の抽象”とは、しばし黙考する必要がありそうだ。

個々の事物は具体的であり、それを抽象化するためには、前述した「レイヤー」が、必要不可欠な思考回路となる。

例えば、単純に「あなたにとってヒーローとは誰ですか?」という設問を受けた場合、僕なら、すぐさま歴史上の人物を出してしまう。
「源義経」と「坂本龍馬」は即答、「もう一人あげよ」と言われれば、極私的に…と言い訳した上で「石田三成」を上げる。

そこで、1回レイヤーをかける必要がある。

僕が選んだヒーローはすべて、最終的に天下を取っていない=権威側に行けなかった人物である。
「勝てば官軍」思想を嫌い、敗者の将に、なにゆえ肩入れするのか?
そこにおいて、(僕が思う)ヒーローが担っているものは、最終的に「勝ち組」に所属しなかった人物なのであることが認識される。

敗者の将に肩入れする感性軸は、「逆説の日本史」を記している井沢元彦氏に任せるとして、ジョン・レノン氏(故人)が“I’m a Loser”と歌ったロックの敗者思想が、デヴィッド・ボウイ氏の映画『地球に落ちてきた男』とリンケージしてジョン&デヴィッドの共作『Fame』を産んだことは、当然のこと、氷室&布袋&松井&高橋に、強弱の差こそあれ、響いていたのでもある。

『JUST A HERO』は、前作『BOØWY』にてプロデュースに着いた佐久間正英氏が、サウンド・プロデューサーという位置に“退き”、布袋さんがアレンジ・プロデュースの掌握権を握った。

「学んだら、すぐに自分のものにする」…布袋さんの上昇志向がよく判ることだが、それ以上に、布袋さんがデヴィッドの『HEROES』を越えようと〜せめて、そこまで行こうとした〜、独力でどこまで行けるか試そうとした志と行為を佐久間さんが、優しく同調した証左とも言えるのが、『JUST A HERO』なのである。

 

(付記)
1:「DANCING IN THE PLEASURE LAND」からスタートして、「WELCOME TO THE TWILIGHT」で終わっていく、本作に、全くのスキは、ない。
“どの環(わ)=楽曲”もアルバム中でガッチリと噛み合っており、アルバム全体にとり、各楽曲は、十全な連関を示している。
このことに、布袋さんのデヴィッド・ボウイに向けるただならぬ憧れと情熱、そして彼なりの分析を感じるのだ。

2:本作の氷室さんのリリックにおいて、当時は「トレンディ・ドラマのような体(てい)のいい歌詞」と評されたけれども、誰も、的を射てはいなかった。「自動記述」と呼ばれたオートマティスムの「何が出てくるのかわからない」ところの歌詞に、本作で氷室さんが立っているのは、“カン(ドイツのプログレッシブ・ロックのバンド)”を筆頭に、布袋さんが電子ノイズの遷移を多用していることへの拮抗なのである。極端に簡略化して言えば、「工業音に並び立つヒトの言葉」である。布袋さんは、本作の氷室さんのリリックについて「夢の図書館のよう」と評していることを忘れてはなるまい。

3:「LIKE A CHILD」の作詞は、松井恒松さん。
氷室さんが、作詞で悩んでいる時に、「だったら、僕が書いてみるよ」とサラッと言って、速攻で書いてしまった松井さんは、単なる寡黙なダウン・ピッキングのベーシストでは、あるまい。
あの時「バンドって、本当に素晴らしいな」と思いました。

 

 

関連サイト

 

<現存する唯一のBOØWY公式アーカイブ・サイト>
http://sp.boowyhunt.com/

佐伯明

1960年 東京都国立市生まれ

中央大学文学部仏文科卒。17歳の頃から音楽雑誌に投稿をはじめ、以後、自称“音楽文化ライター”として現在に到る。

著書として「路傍の岩」(ソニー・マガジンズ)のほかに「らんまるのわがまま」(音楽専科社)、「音楽ライターになりたい」(ビクター・ブックス)「B’z ウルトラクロニクル」「ミラクルクロニクル」(ソニー・マガジンズ)などがあり、共著に「桑田佳祐 平成NG日記」(講談社)「徳永英明 半透明」(幻冬舎)「もういらない 吉田拓郎」(祥伝社)などがある。

独自の文体と鋭い音楽的視点は、リスナーから高く評価され、アーティストの間にも‘佐伯ファン’は少なくない。

現在、FM横浜にて「ロックページ〜ミュージック・プレゼンテーション」の構成を担当
https://twitter.com/RockPage_847

https://www.facebook.com/fmy.rockpage?ref=profile

佐伯明blog 音漬日記 参
http://otodukenikkisan.blog.so-net.ne.jp/

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