ミュージカルシーンに彩りを添える名曲群
さて、そんなエルトンの名曲を活かした、魅惑のミュージカルシーンについて触れていこう。まずはオープニングを飾る、1974年のヒット曲『あばずれさんのお帰り』。“bitch”というダーティワードを含んだ曲を、7歳のエルトンが歌うという、ある意味衝撃的な設定。それでも、1950年代の郊外をカラフルかつ人工的に再現したセットをバックにした群舞は心を掴まれるに十分だ。ちなみに、ここでの“bitch”とは、“あばずれ”な母親のことでもありながら、やんちゃなエルトン自身も指す。
有名な『土曜の夜は僕の生きがい』は、そんな子どものエルトンが、エジャトン扮する十代の彼へと変わるブリッジ的な役割を果たす。ロンドンのパブから移動遊園地に舞台を変え、300人のエキストラと50人のダンサーが舞うさまは、ノリのよい楽曲の効果もあって、まさしく圧巻だ。対照的に、もうひとつの名曲『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』は、エルトンとバーニーの創作の場面で、そのケミストリーを讃えるかのように、美しく、しっとりと歌われる。ちなみにエジャトンはかつて英国王立演劇学校の入学試験の際に、パフォーマンスにこの曲を選んだという。
『ホンキー・キャット』『ロケットマン』『ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)』はエルトンの人気絶頂期から転落期までの場面に寄り添うナンバー。R&B風の『ホンキー~』はマネージャーであり恋人でもあったジョン・リードとともに歌われ、成功を享受する姿がゴージャスな風景とともに歌われる。タイトルにもなった『ロケットマン』は、それでも孤独につきまとわれるエルトンがプールに沈んでいく姿とともに、幻想的に鳴り響く。ファンキーな『ベニー~』は退廃を極めたあげくリハビリ施設に入ることになるエルトンに寄り添う。
この後、盟友バーニーによって歌われる感動的な『黄昏のレンガ路』を挟み、80年代のヒット曲『アイム・スティル・スタンディング』の大団円へ。『アイム~』はこの曲の賑やかなプロモーションビデオの映像が再現された。ちなみに、この曲はエジャトンがアニメーション映画『SING/シング』(16年)に出演した際に劇中で歌った曲でもある。
ほかにも『クロコダイル・ロック』『僕の瞳に小さな太陽』など、ミュージカルシーンに彩りを添えるナンバーは多数。エンドクレジットでフィーチャーされるエルトン&バーニーの書き下ろし曲『(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン』も聞き逃せない。また、物語は1983年発表の楽曲で終わるが、『サッド・ソング』などの後のヒット曲を、エルトンがさりげなく口ずさむなどの小ネタも用意されている。素晴らしい音楽の力に支えられた『ロケットマン』を、じっくりと味わってほしい。
文/相馬学
グラミー賞を5度受賞、『ライオン・キング』の主題歌『愛を感じて』でアカデミー賞歌曲賞を受賞し、代表曲『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』は世代を超えて歌い継がれている伝説的なミュージシャン、エルトン・ジョン。その成功の裏には、悲しくも壮絶なドラマがあった――。誰からも愛されなかった少年は、いかにして世界中で愛され続ける名曲を生み出したのか? 彼の幼少期から鮮烈なデビュー、そして愛されたいと常にもがき続けた半生を、数々の名曲とともに描く。
監督:デクスター・フレッチャー
脚本:リー・ホール
製作:マシュー・ヴォーン、エルトン・ジョン
出演:タロン・エジャトン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデン
配給:東和ピクチャーズ
公開中
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