Aug 25, 2019 column

ミュージカル映画『ロケットマン』を彩るエルトン・ジョンの名曲群を解説

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デビュー以来、半世紀で3億枚ものレコードの総セールスを記録し、5度のグラミー賞を受賞、現在も活躍を続けているイギリス生まれのスーパースター、エルトン・ジョン。そんな彼の半生をモデルにした話題作『ロケットマン』が、いよいよ日本公開された。今年のカンヌ国際映画祭で上映されるや称賛の声を集め、『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)に続くミュージックエンタテインメントの大波となるか、注目されている本作。その見どころを徹底紹介する。

【ご注意】※一部ネタバレにつながる部分がございます。鑑賞前の方はご注意ください。

“人脈”が息吹を与えたミュージカル映画

最初に、『ロケットマン』が『ボヘミアン・ラプソディ』のような伝記ドラマでないことをはっきりさせておこう。本作は実話をモデルにしているものの、つくりはミュージカル。登場人物が歌って踊る、そんなシークエンスが展開するというわけで、つまりリアリズムよりもファンタジー性を重視したエンタテインメントなのだ。歌われるのは、もちろんエルトンの名曲だが、それについては後述。ともかく華やかなミュージカルシークエンスは、稀代のエンターテイナー、エルトンを扱った作品にふさわしい。

物語は、両親の愛情を満足に得られなかった幼少時代に始まり、ピアノの才能の開花、ソングライティングのパートナーとなるバーニー・トーピンとの出会い、アーティストデビューと華々しい成功、ドラッグ依存による挫折、そして復活までをドラマチックに辿る。興味深いのは、エルトンにはつねに孤独がつきまとっていること。両親も、同性愛の恋人も、友人も、本当に必要としている時には側にいない。賑やかなパーティの場でも、いつも一人でいる、そんな彼の愛情の飢餓が切なく響く。

エルトン本人が製作総指揮を務め、その分身と言うべき主人公をタロン・エジャトンが演じる。この二人、実は『キングスマン:ゴールデン・サークル』(17年)で共演済みで、同作のマシュー・ヴォーン監督が今回はプロデューサーを担当。ヴォーンが監督に選んだデクスター・フレッチャーは、すでに『イーグル・ジャンプ』(16年)でエジャトンやヴォーンと仕事をしている。さらに遡ると、役者でもあるフレッチャーはヴォーンのプロデューサーとしての出世作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98年)や、ヴォーンの監督デビュー作『レイヤー・ケーキ』(04年)にも出演していた。そんな人脈が本作に息吹を与えたと言っても過言ではない。

監督デビュー作『ワイルド・ビル』(11年)や、続く『サンシャイン/歌声が響く街』(13年)などで英国庶民の生活をリアルに描き、称賛されたフレッチャーだが、本作でもエルトンの幼少期の描写にそれが活きた。また、フレッチャーは『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)でブライアン・シンガー監督降板後、ノンクレジットで後期の撮影と編集作業に携わった経験がある。音楽の高揚感を活かした演出が、本作でも光る。