ムードボード
同世代の映画作家であるウェス・アンダーソンが1枚のスチール写真から映画のイメージを膨らませていくように、様々なファッション写真に造詣が深いソフィア・コッポラは写真から映画のイメージを構築していく。ブルース・ウェーバーがマット・ディロンを撮った写真から『SOMEWHERE』(2010)が生まれたように、ソフィア・コッポラは静止している写真が動き始めること、写真を再現することに強いこだわりを持っている。絵コンテを描かないソフィア・コッポラにとっての参考資料だ。ソフィア・コッポラによる“ムードボード”。特にウィリアム・エグルストンの写真は、ソフィア・コッポラのフィルモグラフィー全体において多大なインスピレーション元となっている。キャリアにおいて初めて一から作るセット撮影に挑んだ『プリシラ』においては、グレイスランドを撮ったウィリアム・エグルストンの写真が参考にされたという。
キラキラに輝いていた『マリー・アントワネット』のヴェルサイユ宮殿とは対照的に、『プリシラ』のグレイスランドの内装、オブジェには独特の哀愁、木の香りのようなものがある。しかしプリシラとエルヴィスが過ごす寝室の写真はなかったという。ソフィア・コッポラの映画を象徴するともいえる“寝室”のセットは想像で作られた。グレイスランドの落ち着いた色合いの寝室には影が多く、2人だけが隔離された洞窟のようにも見える。この寝室でプリシラとエルヴィスは性行為の変わりに、枕をぶつけ合ったり、ポラロイド写真を撮り合ったり、いつまでも無邪気にじゃれ合う。エルヴィスはプリシラが21歳になるまで性行為を拒否し続けたことが知られている。